■屋上の指定席(秋玲)
さわやかな風も少しだけ眩しい太陽の光も全部。
ここにいたら独り占めしてるようで何だか変な気分になるなと玲は思う。
けれど、独り占めというわけではなくてむしろ二人占め。
ここを教えてくれたのは秋だから。
「ねー。何か良い写真でも撮れた?」
学校で一番高い場所から空を見上げてシャッターを切る秋に向けて玲は問う。
「んー、別にー」
「あ、そう」
つまらなさそうに玲が答えると秋はくすっと笑みをこぼした。
玲はそれに気づく様子なんて全くない。
「うそ、撮れた」
「え?何?どんな写真?」
わくわくと身を乗り出して玲が秋に尋ねる。
そんな玲を見て秋はくすくす笑いながらこう答えた。
「こんな写真」
秋の言葉と同時にシャッターは切られ、玲は思わず顔を逸らした。
「もー!秋っ!」
玲の抗議も空しく、秋が切ったシャッターはカメラの中で眠る。
どんな顔をしているのかは出来上がるまでの楽しみ。
こうやって二人で屋上で過ごすことは多くて、二人にとってこの時間がまた大切な時で。
まだお互いの気持ちを知らない頃。
指定席とも言うべき場所にいつも二人一緒にいた。
空を仰いで先の未来を見つめながら、今日も二人はここにいる。
終
■寄り道(玲、まあ)
汗をかいて少しだけ涼しくなった頃にいつも寄るのは『まりや堂』だった。
まあも玲もそして他の西浜中学の人たちはここに寄る。
玲が大好きなのはここのフルーツサンド。
「うーん、やっぱりおいしーv」
「玲ってすごい幸せそうに食べるよねぇ」
苦笑いして隣に座るまあはフルーツサンドを一口口へと運んだ。
玲はそんなまあを横目で見つつ、目の前にあるフルーツサンドを口に運ぶ。
「そりゃあ美味しいもの。へとへとに疲れた後にこれを食べるのは私の一番の幸せなんだから」
「はいはい。それはよーござんした」
「まあってば真面目に聞いてないでしょ」
まあに軽くあしらわれ玲は口を尖らせる。
でも本当の話なのだからと玲は黙ってフルーツサンドをぱくぱくと食べていた。
まあは買ったジュースを飲む。
「あーでもやっぱりまりや堂はいいねー。なんかほっとする」
「ね、こうやって毎回寄り道するの好きだなー」
二人でこうやってのんびりしながらフルーツサンドとか食べて。
疲れた身体を癒しながら家路へとつくのが日課で。
それが至極幸せで。
「あー、やっぱおいしーv」
満足そうにフルーツサンドを食しながら落ちてゆく夕日を眺める。
明日も明後日も、その先もずっと。
ここの景色は変わらないんだろうなと思うと何か込み上げるものを感じて、
玲は残っているフルーツサンドを口の中へと放り込んだ。
終
■木陰で読書(秋(+玲))
さらりと風が吹いて、まぶたが微かに動くの感じる。
少しばかり暑くなってきた季節、いつもと違うのは外で本を読んでると言うこと。
いや、本当はゆっくりと話をしているはずだったのに、
玲はその心地良さから眠り始めてしまった。
途端、一人になってカバンの中に忍ばせていた本を開く。
読みかけていた場所に栞を挟んであったせいもあって、すぐにそのページは捲られた。
「全く、嬉しいのか悲しいのか」
付き合い始めて数年、安心してくれるのはある意味嬉しいがと秋はため息をつく。
「俺も男なんだけど」
言った言葉は玲の耳には届かない。
秋はため息をつくと玲の肩を寄せて本へと視線を落とした。
「・・・秋・・・・・・」
「起きたのか?」
「・・・沙代子・・・・・・」
って夢か、と半分嬉しいような嬉しくないような。
複雑な心境を感じざるを得ない。
玲の寝言でさえどぎまぎする自分を自覚して、秋はため息をついた。
「全く」
秋の文句は空へと溶けてゆく。
終
■片想い×片想い(玲、まあ、沙代子)
「気持ちが通じたと思ったら、ちょっとしたことでケンカよ、ケンカ」
「でもケンカするほど仲が良いって言うじゃない」
「けど、やっぱり言いたいことって全部が全部言えるわけじゃないでしょ?
そのうち爆発するんじゃないかって」
「我慢はしない方がいいと思うけど」
「それができれば苦労しないわよ。いいよね、玲は。秋くん気づいてくれるじゃない」
「まあ〜〜〜〜」
玲も沙代子もまあの文句の言葉にため息をついた。
またユキとケンカをしたのがこの原因。
「わかってるわよ。私だってちゃんと素直に言えばいいことぐらい」
「だったら、」
「でも通じないこともあるでしょ?結局お互い片思いなのよね」
「あー、それはわかるような気がする」
「男女問わずそれは言えてるわね」
三人で苦笑い。言葉で言ってもそれが通じない時もある。
男でも女でもそれは一緒。お互い片思いなのだということをたまに痛感する。
けれど。
「通じた時は嬉しいよね」
結局いつになってもお互い片思いなのは変わらないのかもしれない。
それを少しだけ楽しみつつ、でももどかしい想いを抱えてやっぱりそれでも言葉にするのだ。
それが、私たちの関係なのだということを自覚して、皆苦笑いをこぼしていた。
終
■放課後の待ち合わせ(秋玲)
ちょっぴりドキドキ、そわそわしながら慣れない場所で玲は一人佇む。
だってここが良いって言うからと玲は眉間に皺を寄せてとある人を待っていた。
学校が別々になってからというもの、今まで住んでいた隣にはいないしで、
結構不便だと玲は文句の言葉を並べる。
今日はたまたま玲が部活がないせいもあって、久々に勉強を教えてくれるって言ってたのに。
待ち合わせ場所は、とある喫茶店。
制服姿でここにいるのは何となく気恥ずかしいと言うか、何と言うか。
兎にも角にもちょっとばかり落ち着かない心地で窓の外を眺める。
少しだけ雲行きが怪しいなと思いながらちゅーとオレンジジュースを喉に流した。
「遅いぞ、秋」
口は形を成し、言の葉となって現れる。
すると窓の外に見慣れたブレザーの制服が見えた。
やっと来た。
がらんとベルを鳴らして慌てて駆け寄ってくる秋を見て玲は笑う。
「遅いよー」
「ごめん、玲」
待つのなんて苦手だなって思ってたのに、
こうやって来るのを見てると何だか不思議な高揚感に駆られた。
苦手だけど、ちょっとだけ楽しくて。
まぁ、たまにはこういうのもいいのかもしれないと玲は心の中で独りごちる。
「んじゃ、まずは飲み物飲んで落ち着かせましょうか」
玲は笑って秋にそう言うと、秋もまた笑って返した。
ちょっとした高校の帰り道、放課後の待ち合わせ。
終
■木漏れ日(ユキまあ)
ここの高校の中庭はちょっとした有名スポット。
木漏れ日が暑い日差しを遮って、あたたかさを調和してくれる。
「あ、やっぱりここにいた」
「まあ」
「探したんだからね、もう」
「はいはい。ごめんって」
ユキは苦笑いして返すとまあは一つため息をつく。
ため息をついた後にユキの隣に座り込んだ。
「ここ好きねー」
「うん。俺の一等好きな場所」
「あっそ」
「素っ気ないなー、まあは」
あははと笑いながらユキは言葉を返す。
ちょっとだけそんな他愛のない会話でもまあは幸せだなと思う。
「あったかいね」
「な。寝そうなぐらい」
くすくすと互いに笑みをこぼして、でもそんな幸せな時間なんてすぐに終わりを告げる。
チャイムの音が校内に響き渡って昼休みの終わりを知らせた。
「さ、午後も頑張りましょうか」
「おう、じゃあ後でな」
「うん」
最近の二人で過ごす場所はこの中庭。
あたたかさとふわふわとした心地よさがちょっとした二人の幸せの場所。
終
■曲がったネクタイ(秋、秋の父)
鏡の前に映し出される自分の姿に秋は眉間に皺を寄せた。
イマイチ慣れないそのネクタイに困っているのがわかったのだろう。
父親が秋の後ろから顔をひょこっと出して「大丈夫か?」と尋ねた。
「大丈夫だったらこんな顔してないよ」
「それもそうか」
そう言って笑うと秋を横へと振り向かせ、ネクタイの長さなどを調整し始めた。
慣れた手つきが曲がったネクタイを元に戻してゆく。
その様子を秋はじっと見つめていた。
「父さんは・・・ネクタイすることに慣れたのはいつ?」
「そうだなー。多分社会人になってからだ、うん、俺の時代は学生服はみんな学ランだったからな」
「あ、そっか」
秋は独り納得して鏡の中の父親とネクタイとを交互に見遣る。
「さ。時間もないから早く食事済ましてくれよ」
「はいはい。わかってるって」
新しい生活が始まるその日。
そんな会話を交わして、秋は朝食を食べ始めた。
高校生活一日目、みんなとバラバラになってから初めての日のこと。
終
■ひとりにして(耕視点の秋と玲)
バタン!と勢いよくドアの開く音がして思わず耕は身を竦めた。
「ねーちゃん? ドア壊す気?」
「煩いっ!」
そうしてまた勢いよく部屋のドアの閉じる音がして耕は肩を竦めた。
「何、あれ」
「また秋くんとケンカしたんじゃないの?」
いつものことでしょ、と玲の母は相手にしない。
すると数分も経たないうちに玄関の外からチャイムの音がした。
母の言っていたとおりなんだろうと耕は黙ってドアを開ける。
「ごめん、耕。玲いる?」
「いるよ。すっごい剣幕で帰ってきたけど」
「あー・・・だろうなぁ」
苦笑いして秋が言うと耕にケーキの箱を預ける。
んじゃ後は任せたと耕は言い残してリビングへと姿を消した。
「独りにしてよ!」
「それじゃ意味がないんだって」
大きな声は部屋の外まで響き渡る。
耕は苦笑いでその会話を聞いていた。
だんだんと声が小さくなってゆくのを確認して、ようやく二人のケンカが収まるのだろうと実感する。
仕方ないなぁとティーポットを取り出して、さっき貰ったケーキを取り出して更に並べた。
「全くいつになったら静かになるんだか」
耕の呟きは誰にも聴こえることはなく、空を切るだけだった。
終
■早朝の教室(全員)
「おはよー」
「おっはよ、玲」
みんなどこか心が落ち着かなくて、おはようの挨拶さえどこか上ずっている。
それもそのはず、今日は中学時代最後の日。
「あらもうみんな来てたの。早いじゃない」
「そういう溝口は遅いんだよ」
加トの冷静な突っ込みに溝口はややふくれっつらを見せながら席に着いた。
皆どこかしんみりとした雰囲気が漂う。
「この教室とも今日でお別れか・・・・・・」
まあは一つため息をつくと窓の外の朝陽を見つめる。
「そう、だね・・・・・・」
それぞれが歩む道、それは一緒ではないけれど、でも。
「だからってこの関係が壊れるわけでもないだろ?」
秋は優しい笑みを浮かべて皆の顔を一瞥する。
玲もまあもユキも加トも溝口も、そして遠くにいる沙代子も。
この関係は変わらないのだから。
「そうねぇ、また皆で笑ってここに集まりましょうか」
「だね。皆でまた一緒に」
これは一生の別れじゃなくて、ただの分岐点。
いつもみたくまた笑って会いたいねと言葉をこぼす。
この言葉は数年後また現実のものとするために、皆で約束を交わす。
きっといつか叶えられる願いだから。
だから、笑って卒業しよう。
終
■夏の終わり(秋、ユキ)
日の傾き方が少しずつ変化を見せる。
影の長さもまた変わってきていることに気づいて、
秋は夏が終わろうとしていることだけはわかった。
「あ、兄ちゃん」
たまたま近くを通りかかったから、そんな理由で花屋の前を通る。
弟のユキが店の手伝いをしていたのか、店の中から顔を出した。
「今日も手伝い?」
「そ。あ、玲なら多分今日どこも出かけてないよ」
「何で、そこで玲が出て来るんだよ」
「いいんだってば。気にしない気にしない」
けらけらと笑ってユキは秋に言う。
秋はため息を一つつくと肩を竦めて踵を返した。
「兄ちゃん」
「何?」
「はい」
ユキに呼び止められて振り返ると向日葵一輪目の前に差し出した。
きょとんとした顔をして秋はユキをまじまじと見つめる。
「玲、向日葵好きなんだって。まあが言ってた」
「あ、っそ」
余計なお世話だと思いながらも秋はそれを受けとる。
それをもって玲の家に行けとそう言ってるのだけはわかって苦笑いをこぼした。
「じゃあな」
「気をつけて」
再び前を向いて歩き出すと日はもうすぐそこまで闇を連れていて。
秋は歩きながら街灯を見つめる。
そうして受け取った向日葵を持って、いつも帰りに寄る所へと足を向けて歩き出す。
中学生最後の夏休み。
まだ暑い残暑の続く日のことだった。
終
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後書きという名の裏話:
カップリングよりもコンビの話が多くなりました。っていうか恋愛ってイメージあまりないし。
新鮮な組み合わせもあって、書いてるほうとしては不安半分、けれど楽しみ半分でした。
六サヨが放送されて早五年以上、早いものだなぁと痛感しています。
私のサイトが始まったキッカケは六サヨにはまったからです。
おかげで今の私があるのだし、そう考えると私の一つの分岐点だったとも言えます。
これからものんびりではありますが、更新していきたいなと思っていますので、
楽しみにしていただけると嬉しいです。
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