21. なみだ(涙)
自分にとって大切だからこそ失いたくないものはある。
どうして自分なのだろう、そう何度も心の中で叫んだこともあった。
自分の運命を恨みたくもなった。どうして、私が後継者になってしまったのだろう。
幼い記憶はそれを拒否する言葉もなかった。ただ知らなかっただけ、広い世界を知らなかっただけだ。
名を指されたら拒否する理由もない。それが自分の血筋にある運命の声なのだから。
でも、広い世界を知ってしまった自分はそれを受け入れるのは辛い。
『静音』
笑顔で名前を呼ぶ彼の声が好きだ。
何気なくやさしいところも好きで、たくさんの大切なものをもらった。
『なぁ、静音。俺、お前のこと大事にするから』
婚約を交わした時、彼はそっと囁くように言葉を口にすると少しだけ照れた表情を見せた。
それまであった世界が一気に変わる。
彼という存在がいたからこそ、目に映る景色が色鮮やかになったといっても過言ではない。
『・・・・・・ったく、静音はドジだな』
『だって・・・・・・』
『そういうとこ、かわいいけどさ』
恥ずかしげもなく言われて、静音の方が逆にドキドキしてしまったのを覚えている。
たまたま探していたものが見つかって嬉しさのあまり勢いよく駆け出したら、何もないところでこけそうになった。
それを見ていた彼が危うくこけそうになった自分を腕を掴んで引きとめる。
昔からどこか抜けているところがあるのは自分でも分かっていたけれど、好きな人からそう指摘されるのは少し悲しい。
少し項垂れている自分に気づいて彼は困った顔をすると頭をぽん、と軽く撫でた。
『そういう静音だからほっとけないんだって』
言いながら彼は腕を掴んで引き寄せると彼の胸に自分の身体を預ける。
抱きしめられた腕はいつになく強くて。
『離したくない、そう思うからさ』
それで許してよ、彼はそうすまなそうに耳元で囁いた。
それは幸せだった頃の記憶。彼が何も知らず欧州へと旅立つ少し前の思い出。
「ごめんなさい」
あなたに何も告げずにいなくなる自分を許してください。
あなたが好きなのは今も変わらないのに。
会いたい、そう願ってももう会えない。
触れたい、そう思ってももう触れられない。
涙が頬を伝ってこぼれ落ちてゆく。
願うことならもう一度あなたに会いたい。
それが叶わない願いだとわかっていてもそう願わずにいられないのは想いが胸の奥にしっかりと刻まれているから。
ごめんなさい。
呟いた言葉の先に待っているのは、彼に会えないと言う道。
こんな自分勝手な私を忘れてください。
でも、私は、忘れることなんてできない。
だって、あなたのことが好きだから。
だからせめて。
あなたが笑顔でありますように。
祈りと共にこぼれ落ちた涙を拭って、月夜を仰いだ。
終
*そろそろ葛との友情も書きたい今日この頃です。
早く未公開のDVD売ってくれないかなぁ。わくわくしながら日々待ってる感じです(笑)
最終巻は12月・・・・・・その後が気になる私としては遠いよ・・・(涙)。
ちょこちょことナイトレイドは地味に書きそうな自分がいます。
あ、ちなみにこの話の時間軸は葵がヨーロッパに行った後くらいですね。