「・・・それで、白井さんはちゃんとお祝いしてあげたんですか?」
「・・・・・・何とか、と申しましょうか。妥協して、の方が正しいかもしれませんわ」
はぁ、と溜息を吐きながら白井黒子はマグカップを二つ持って初春飾利がカタカタと指を動かし、パソコンに打ち込んでいるその隣にそっとそれを置いた。甘い香りと白い湯気が微かに揺れている。
苦笑いを浮べながら初春は打ち込み作業をひと段落させると、マグカップを手にとってふぅ、と息を吹きつける。黒子はまだ湯気の立つマグカップの中にあるココアに口をつけた。
「でも御坂さんに彼氏ですかぁ。いいなぁ」
「あの類人猿にだけはお姉様を持っていって欲しくなかったのに、悔しいですわ〜〜〜〜!!」
うう、と唸りながら黒子は更に深いため息を吐いた。うっとりと夢を見るように初春は様々な想像を巡らせる。
「まあまあ、御坂さんが幸せそうならいいじゃないですか」
「それはもちろんですけど! ですが、やはりあの類人猿と言うのが気に食わないのです」
「類人猿って・・・えっと、上条さん、でしたよね。悪そうな人ではなかったと思いますけど・・・・・・」
「わかっていますわ。私とてあの方に助けられたこともありますし。お姉様の口からそれは呆れるくらいに話は聞いています。ですが、やはりお姉様を持っていかれるのは悔しいんですの〜〜〜〜!!」
きぃっ、と喉を鳴らして白井が言うと初春はふー、ふーと湯気の立つココアを冷ましていた。
いつものことと言えばいつものことだと初春は片付ける。だが、今日は少し様子が違っているように見受けられた初春は黒子へと問うた。
「でも、白井さんは妥協でも御坂さんに『おめでとう』が言えたんですよね」
「・・・・・・悔しいですが、その通りですわ」
「それってすごいことだって思いますけど」
初春はさらりと言葉を口にし、白井は思わず薄く眉間に皺を寄せる。
「・・・・・・どういうことですの?」
「普通、そういうことは素直におめでとう、なんて言えないんですよ。でも白井さんはちゃんと言ったじゃないですか。それはすごいことだなってそう思っただけです」
私なら無理かもしれません、初春が言うと白井は小さく息を吐いた。
いつかはこの日が来るだろうことはわかっていたことだ。美琴の表情を見ていれば上条とどうなったかなどわかるものだ。
いいことがなければ落ち込むし、逆にいいことがあれば満面の笑みでいるのだ。同室なのだからそれは当たり前のようにわかってしまう。
(ホント、憎らしいですわ、上条さんが)
だが、嫌いにもなれない。美琴が慕うように案外心根の優しい人間だということも黒子は知っている。
付き合うことになったという話を聞いた後、美琴がいない時に上条は白井に謝りにきたのだ。白井の美琴への気持ちを知っているからこそ選んだのだろう選択肢に黒子は悔しいと同時にすぐに行動を起した上条に半ば感心したのも事実。
『御坂は白井を大事にしてるからさ。ちゃんと話しておきたかったんだ』
上条の言葉を思い出して黒子は溜息混じりに言葉を口にした。
「ホント嫌な人だったら楽でしたのに」
白井の言葉に初春は内心「そんなこと思ってないくせに」、と呟いた。美琴を預けられる人間は限られるのだろう。上条はその中の一人だということは見ていてわかる。美琴自身はもちろん、黒子もなんだかんだ言って上条に信頼を置いている。
悔しいながらもそれを認めざるを得ない状況が白井の言葉の表れだ。
でもやはり思うのは一つだけ。
「御坂さんが幸せであるならいいんですよね、白井さん」
満面の笑みを浮かべて言う初春に白井は当っているその事実が悔しいと思う。
でもまさにその言葉のとおりだった。
「・・・・・・いつも笑ってくれたらそれだけで幸せなのですわ、私は」
どんな形であれ美琴の隣にいられるのなら。
上条と違う形で美琴を守れるのならば本望なのだ。
それが白井黒子が大事にしたい、慕っているたった一人の女性なのだから。
「優しいですね、白井さんは」
「余計な一言ですのよ、初春」
「はいはい。じゃあそろそろ仕事しましょうか」
「ええ。その方が気が紛れるというものですわ」
初春の声に白井も頷く。
そっと瞼を閉じ、再びゆっくり開くと白井は意識を変える。
『黒子は私のパートナー、でしょ』
そう当たり前のように言った美琴の言葉を反芻して白井はきゅっと唇の端を上げた。
『私はアンタが頑張ってる姿、結構好きよ』
だから頑張れる。白井の頑張ってる姿が好きだと言ってくれたから。
この街を守るために、何よりもあの笑顔を守るために今自分はここにいる。
―――お姉様の笑顔が黒子の元気の源なのですわ。
声にならない声を口にして、白井黒子は今日も街の治安のために動き出す。
終