熱
「君の傍にいる」
そう言った彼の言葉が、私の心の支えだと気づくのに時間はかからなかった。
融機人である彼。
調律者である自分。
本来なら恨まれて、憎まれて当然なのに、そんな私を許し受け入れてくれた。
ネスのことが大事。
よりそう思ったのは彼の言葉のせい。
これが恋と気づくには、少し鈍かった。
「何だ、こんなところにいたのか」
頭上から振ってくる言葉にはっとして顔を上げる。
そこには紛れもなく、彼の姿。
「ネス………」
彼の名を呟くと彼は訝しげな瞳で私を見つめる。
「どうした?」と尋ねられると、最近自覚した気持ちのせいか、思うように言葉に表せない。
僅かに頬が赤く染まるのを兄弟子は見逃すはずはなく。
「トリス?」
「なっ……何でもない!」
私はかぶりを振った。
ドキドキと鼓動が早く鳴る。
どうしようと思いながら彼と目を逸らしたまま、ただこの気まずい沈黙だけがあたりに漂っていた。
こんなの自分らしくない。そんなのわかりきったこと。
「トリス、風邪でも引いたのか?」
そんな心配そうに尋ねられると余計に、困ってしまう。
違うの、風邪なんかじゃないの。
そう言いたくても言えない。
顔を赤らめたまま、ぶんぶんと首を横に振る。
「ちょっと、のぼせただけだから。大丈夫だから」
そう言うと自室へと戻ろうと踵を返そうとした瞬間。
何かに囚われた。
「ネ、ネス?」
確かに自分の手は彼に囚われていたのだから。
「少し、熱い。風邪の引き始めだろう。部屋まで送っていく」
用件のみ伝えると、私は兄弟子に抱えられた。
「ネス??」
あぁ、もうどうにでもなれと思い、彼の腕に抱えられたまま私は黙る。
顔が火照るのを確認しながら、その鼓動を耳元で聴いていた。
END