冬の夜空
「寒いと思ったら、雪よ」
宿の窓枠に水蒸気が張り付き、白く曇らせていた。
はぁっと息を手先に吹きかける。
「寒いんだろ、こっち来てあったまれば?」
彼は部屋の暖炉に手をあて、温めていた。まったく少しは景色も見なさいよ。
色気も何もないんだからと、一つため息をつく。
旅の途中、宿に泊まることにしたのは一つの理由。
冬の使者の訪れがあったから。
ぼんやりと外を眺め、そう言えば何となくだけど昔もこう言う光景を見たことがあるかもしれないなと思う。
以前妹が言っていた、自分の住んでいたところは雪が結構降っていたと、兄と妹と私とでよく遊んだと。
私たちは冒険者だ。
不当な輩を捕まえ、騎士団に渡し、報酬を得る。
そのお金で私たちは旅もしていた。行く先々で様々なものを見て、皆の待つゼラムへと戻り報告している。
最近はあまりゼラムにも戻らなくなったのだが―――……。
私の手が不意に彼の手に包まれた。
「ほら、冷えてるだろ」
暖めたはずの彼の手が私の寒さを吸収していった。かわりに私の手に温かさが広がる。
「ねぇ、フォルテ」
彼の名を呼び、「ん」と彼は相槌を打つ。
「そろそろまたゼラムに戻らない?」
あそこには家らしい家なんて持ってないけれど、でも彼の生まれ故郷でもあるし、何よりも気になるだろうから。
口には出さないけれど、思ってるんだろうなと肌で感じているから。
「俺は……」
「気になるんでしょ、妹のことが」
すぱっと言い切って。何年相棒やってると思ってるのよ、私を見くびらないでよね。
家族を捨てて、自由を得た彼だけれど。
でも気になるはずだ。だって、妹のディミニエは―――。
「それに言われたじゃない。シャムロックにも「逃げないで下さいね」って」
少し罰の悪そうな顔をしてうーんと唸るのを見て、全くと思う。
もう結論は出てるはずだもの。何をそんなに迷ってるのよ。
「わかったよ」
「そうこなくちゃ。ゼラムに着いたらどっか泊めてもらいましょ」
もう半年以上会っていない友人達の顔が脳裏に過ぎっていた。
待っているだろう、彼女らの顔が。
「ねぇ、フォルテ。いつ出発……」
言いかけたところで、言葉は封じられる。飲み込まれた言葉は自分の中に留めて。
頭の中は真っ白だし、今自分が何しようとしたかも吹っ飛んでしまった。
彼のそれが離れると、私はようやく呼吸を整える。
「もう、いきなり…」
「ゼラムに帰ったら、家どっか借りるか」
「は?」
彼の提案に思わず訝しげな瞳で見据えた。淡い緑の瞳を。
「いつ戻ってきてもいいように、俺達の家をさ」
にやりと笑って言う。
その言葉の意図に気づいたのは、言われてから数分後。
「フォルテ………」
私は僅かに染められた頬が熱くなるのを感じ、言葉に詰まる。
「ばか」
それが私の答え。
そう言うと彼の腕に自分の腕を絡め、彼をまっすぐ見据えた。
淡い緑色の瞳の奥に宿る灯りを―――。
ちらつく雪がその日初めて街をひっそりと白く染め上げ、
出発まで時間がかかったのは、多分彼のせいだと私は一人で納得していた。
慣れないことするからよ、と一つ文句を付け加えて。
END
【あとがきもといいいわけ】
なーにやってるんでしょーねー。この二人。バカップルめ。
小説『私だけの王子さま』から数年ってところでしょうか。
そろそろ落ち着く歳だよね、二人ともってことでなぜかこんな展開。
あ、ちなみにディミニエとケイナは何気に顔見知りとなってます。
まぁ、私の希望ではありますが。仲良い二人がいいなーって。
久々に書いたらこんな展開になっちゃいました(爆笑)
夫婦漫才な二人が見たかったのに、甘いよ、うん、甘いね、自分。
こんな展開でも許していただけると嬉しいです(苦笑)