クッキーの行方






「ソルのバカっ!」


そう言って駆け出した少女は無意識から外へと飛び出していった。
バカ呼ばわりされたソルは…ただ途方に暮れているのだった―――。



事の次第は些細な出来事。
たまたま小腹が空いたせいか、ソルは台所を訪れた。
「リプレ?」
いつもここにいるはずの少女の名を呼ぶが返事がない。
首を傾げて、しばし考えた後に退室することを選んだ矢先。
一つ袋を見つけた。
「?」
その袋を手に取り、中身を確認する。
「クッキー?」
少々市販の物とは違い、少々形は崩れているものの一口放り込むと味は悪くはなかった。
2、3個頬張った頃に、一人の少女が外出から帰ってくる。
「たっだいまー!…あれ?みんな出かけてるの?」
ぱたぱたと歩いてくる音が近づいてくる。
「リプレ?」
顔を覗かせた瞬間だった。
「あ、ナツミ。おかえり」
ごくんと喉が鳴る。食べていたクッキーを喉から胃へと送られた瞬間。
突如、少女―ナツミは目を見張った。


「あ――――っ!!」


「え!?何??」
突然の大声に思わず跳ね上がりそうになる。
それぐらい、びっくりしたのだから。
「どうしたんだよ、ナツミ」
「それ、食べたの?」
袋を指差し、ナツミは尋ねた。
「あ、これ食べたらまずかったのか?」
「まずいも何も……」
そこでナツミは言葉を濁す。自分はただ首を傾げるだけ。
しばらく黙っていたナツミが急に顔を上げ、自分をキッと睨んだ後……。



冒頭に戻るのだった。



「あれ?今すれ違ったのナツミ?」
ナツミと入れ違いで顔を覗かせたのはリプレ。
どうやら買い物に行っていたらしい。手には大きな袋を2、3個抱えている。
よいしょと言いながらリプレは荷物をテーブルの上に置く。
「ソル?どうしたの?」
リプレは訝しげな表情を浮かべ、そして自分は曖昧に笑うしかなかった。


「なるほどね。それでナツミは行っちゃったわけだ」
「やっぱり食べちゃまずかったのか?」
問いに、リプレは苦笑いする。
「確かに悪かったのよねー。まぁナツミもナツミだけど」
お互い様よねなんて言って荷物を片付けていく。
荷物を片付けながらリプレはこうも言った。
「あれ、ナツミが作ったのよ」
「え?」
「ソルのために作ってたの」
「は?」
リプレはくすくすと笑いながらなおも続けた。
「いつも迷惑掛けてばかりだから、たまには感謝の気持ち贈らなきゃね」
と言いながら作っていたのだそうな。
俺の…ために…?
「俺、ナツミ探してくる!」
いてもたってもいられず、外へと飛び出す。
その後姿をリプレはくすくす笑いながら見送ったとか。
「ったくもー。二人とも世話が焼けるわね」
残されたリプレが発した言葉はそれだけだった。



季節はもう夏を迎えようとしている。
日差しは暑く、そろそろ水浴びが気持ちいい季節だなぁとぼんやりとした頭で考えていた。
「バカソル……」
届くはずのない声は吐き出されるも、消えていく。
バカなのは私も一緒だ、と思う。何も説明せず、飛び出したのだから。
今ごろソルは怒ってるに違いない。
あーあ、バカバカ。
しゃがんだそばにある芝生の草をぷちっとむしった。
顔を膝に埋めて、これから先のことを考えてる時だった。

「ナツミっ!」

背後から声が聞こえた。
紛れもなく、ソルの声が。私は埋めた顔を上げずに黙る。
なんて顔、すればいいのよ……。
「はぁ…ったく、こんなとこにいたのか」
探したんたぞと一言付け加えて。
「………」
「ナツミ」
「………」
「ナツミ」
ソルは私の前に来るなり耳元を両手で包むとぐいっと顔を上げさせた。
「そ、ソル!?」
「やっと顔を上げた」
「……ずるい」
ぶーっとたれながらも、でも思ったよりも怒ってない様子にホッとする。
じっとソルが私を見つめ、私は顔を俄かに朱に染めた。真剣に見つめていた瞳がふっと急に優しくなる。
「…ごめんな。勝手に食べて」
「ソル……」
「あれ、俺のために作ってくれたやつなんだってな。リプレから聞いた」
「………」
「ありがとう」
そう言ってソルの右手を私の頭に載せてくしゃっと撫でた。
「ううん。私のほうこそ、ごめんなさい」
今度は素直に謝る。勝手に怒って、ごめん。
「じゃあ、帰るか」
そう言ってソルは立ち上がり右手を差し出した。私はその右手を握り締めると立ち上がる。
家路への道のり、ずっと互いの手を握り締めたまま。
離されることなくぬくもりを感じて―――。



そのまま帰った二人は。
フィズやアルバにからかわれたとか何とか。
初夏の陽気が、差し込めるそんな家でのできごと。
握られた手には二人の気持ちが微妙に縮められたことが覗えた。



END