Shine snow flower

―――どうか、幸せに。






小さく息を吐くと、青い空を仰いでベルナールは着慣れぬ白いタキシードのジャケットを羽織った。幼い頃から見ていた少女が成長し、自分の目の前に再び現れた時はこのアルカディアと言う星の女王の卵と言う形だったなと思い出す。
その少女は仲間達とアルカディアを救う戦いを成し遂げ、女王とならずこの地に再び降りた。

『私、ベルナール兄さんの傍にいたいの。私はベルナールさんのことが好きだから・・・・・・』

押し隠していた気持ちが、少女の言葉に揺れ動いた瞬間だった。
ずっと秘めているはずの想いを口にされてしまっては、自分の気持ちが揺れるのは当然のことで。

『アンジェ・・・・・・』

我ながら意志の弱さに嘆きつつも、どこかで少女の気持ちと自分の気持ちが通っていたことに嬉しさがこみ上げた。少女から女性へと変化し、その美しさは誰よりも勝っていて、だからこそいつも落ち着かない気持ちでいたと言うのに。
その少女は自分のことを想ってくれているのだとわかった時、どれほどの悦びが溢れたことか。

『君が好きだよ、アンジェ。だから―――』

するすると言の葉が紡がれる。
大切な言葉を君へ。

―――僕の奥さんになって。



                *



「だーかーら、アンジェリークにはこのプリンセスラインのドレスの方が似合うって言ってるだろ」

「いいえ、レイン君。こればかりは私も譲れませんよ。こちらのマーメイド型のドレスの方が似合います」

「まあまあ二人とも、落ち着いて」

「ジェイドの言うことは尤もだ。ここで揉めても仕方がなかろう。それにアンジェリークも困っている」

はっと振り返ったのは赤髪に銀色のメッシュが入り、今や財団の理事であるレインと、
篤志家であり、アンジェリークが大好きな陽だまり邸の主人である二クスはアンジェリークへと視線を向けた。アンジェリークは曖昧な笑みを浮かべる。

「せっかくのアンジェリークの晴れ姿なんだぞ。妥協はしない方がいいよな?」

「え、れ、レイン?」

「そうです。だからこそあなたのドレスは私たちも一緒に決めると言う話になったのですから」

「ニクスさん?」

アンジェリークは戸惑いながらニクスとレインを交互に見遣った。

「ほらほら、二人ともアンジェも困ってるよ」

「だったら、ジェイドはどういうのが良いんだよ。アンジェリークに似合うって思うものは」

レインの言葉にうーん、とジェイドは唸らせてそうだなぁ、と言葉を続けた。

「Aラインかなぁ。そっちの方が良いと思うんだけど」

「また意見が別れましたね。では、ヒュウガ。あなたはどう思いますか?」

「俺は・・・・・Aラインが良いかと思う」

「ほう、ではやはり最後はアンジェリーク、あなたが選んだ方が良さそうですね」

「あ、そ、そうですね・・・・・・」

どうしよう、と内心アンジェリークは思いながらちらりと四人へと視線を向ける。
真剣にドレスを選ぶ姿はある意味面白いのだが。
そもそも、こうやってドレスを選ぶには訳があった。
アンジェリークとベルナールが結婚することになり、二人がその報告を四人へするとなぜかドレス選びは4人が選ぶことになったのである。
当然、最初はベルナールも加わる予定でいたのにいつの間にかベルナールは追い出され、気づけば4人が真剣に悩んでしまっているのだった。

『ベルナールは立ち入り禁止だ』

レインが最初にきっぱりとそう言い放ち、ぽかんとベルナールはレインを見上げる。
なぜだい、と問うたベルナールに答えたのはニクスだった。

『後からの楽しみの方が良いでしょう。当日までのお楽しみですよ、ベルナール』

『そうそう。ちゃんとアンジェリークに似合ったものを選ぶからね』

『無論問題はなかろう?』

畳み掛けるようにジェイドやヒュウガに言われては、それ以上言葉を挟むことは出来ず、
ベルナールは「じゃあ任せたよ」と一言告げると陽だまり邸を後にしたのだ。

「えーっと私は・・・・・・」

沢山あるデザインの中、アンジェリークは困り果てていた。

「何もこのデザインが全てではありませんよ。このデザインをベースにデザイナーの方にはアレンジして頂きますから」

「そうなんですか?」

「ええ。あなたに合ったものを、と言ったでしょう?私たちからのプレゼントですよ、アンジェリーク」

ニクスを見つめ、次にレイン、ジェイド、ヒュウガと視線を移すと皆微笑んで返す。
ニクスの言っている言葉が真実なのだろう。

「ありがとうございます、皆さん」

「さ、選ぼう、アンジェ」

「あなたに似合ったものを選ばねば、な」

「お前なら何でも似合うとは思うけどな。でもやっぱり記念になるものにしたいだろう?」

アンジェリークのウェディングドレスを選ぶのにそれから数時間はかかったとか。
最高の物をと言う4人の言葉にアンジェリークは半ば泣きたい想いを抑えて小さく笑っていた。




                    *




少しばかり冷える晴れた空の下、ベルナールは着慣れぬ白のタキシードを着て青空を仰いだ。今日は約束の日。

「晴れてくれて良かったよ」

ぽつりと呟いた言葉は空へと溶け込む。目を細めて広がる青い空を眺めているとベルナールの背中越しに声が聞こえ、思わず振り返った。

「ベルナールさん」

振り返った先にいたのは、自分の愛しい人。

「アンジェ・・・・・・・・・」

白いウェディングドレスに身を纏った、アンジェリークの姿がそこにあった。
何を言えばいいのか、言葉に迷いベルナールはただ口をぽかんと開けて呆ける。

「に、似合うかしら?」

「似合うよ、アンジェ。―――すごく綺麗だ」

「ベルナールさん・・・・・・ありがとうございます」

ブーケをぎゅっと握り締めながらアンジェリークはベルナールを見遣る。
まじまじとベルナールは食い入るようにアンジェリークを見つめていた。

「何だかそんなに見られると恥ずかしい・・・・・・」

「いや、だって、やっぱり覚えておきたいだろう?僕の奥さんはこんなに素敵なんだよって」

さらりとすごいことを言われたような気がする、とアンジェリークは思いながらも曖昧に笑って返した。

「そのドレスは4人からの気持ちかな?」

「ええ、陽だまり邸の皆さんからのプレゼントなの」


アンジェリークは言葉を口にしながら昨日の夜のことを思い出していた。
皆で食事を摂るのは暫くもうないだろう、そう思って陽だまり邸に皆が顔を揃えた。
翌日の式にはもちろん来るとは言っていたものの、ゆっくり話をすることはできないでしょう、と言うニクスの計らいでもある。

『アンジェ、幸せになるんだよ。ベルナールならきっと幸せにしてくれるだろうけれど』

ジェイドは甘い香りのするベリーのタルトを切りながらアンジェへと言葉を綴った。

『ジェイドさん・・・・・・』

『あなたには幸せになる権利があるんだ。何かあればいつでも相談にのる。困ったことがあったらいつでも言って欲しい』

『そうですよ、アンジェリーク。あなたは幸せになるために沢山のことを乗り越えてきたのですから。あなたが幸せであれば私たちも嬉しいのですよ』

『ヒュウガさん・・・ニクスさん・・・・・・』

ヒュウガとニクスが紡ぐ言葉にアンジェリークの瞳が揺らいだ。
いつも困ったことがあったら支えてくれた皆の言葉が胸に染み込む。

『アンジェリーク、お前が幸せならオレらは幸せなんだ。お前が幸せになってくれることがオレらの幸せに繋がる。忘れないでくれ、オレらと言う仲間がいること』

レインはくしゃりとアンジェリークの頭を撫でて言葉を口にする。
アンジェリークの頬が俄かに赤くなり、瞳は潤んでいた。
身体を揺らされたら大粒の涙がこぼれ落ちてしまうんじゃないか、そう思えるほど。

『皆さん・・・・・・ありがとう、ございます』

ドレスも何もかも用意してくれて、プレゼントしてくれて、いつも支えてくれて。
嬉しさのあまり、アンジェリークは頬から涙がこぼれ落ち、ぐす、と鼻を鳴らした。
皆の想いが伝われば伝わるほど、寂しさと悦びが交互に押し寄せ、アンジェリークは複雑な想いを抱えて4人を見据えた。
瞳から涙を拭ってアンジェリークは笑う。

『私、皆さんと出会えて本当に良かった』




「アンジェは素敵な人達に恵まれたね」

「え?」

「沢山の友達と、仲間と、君を支えてくれる人が沢山いるんだ」

「・・・・・・それを言ったらベルナールさんも含まれるのよ?」

くす、と微笑んでアンジェリークはベルナールを見つめると、ベルナールは笑って応える。

「そうだね―――これからよろしく、僕の可愛い奥さん」

「こちらこそ、宜しくお願いします。私の素敵な旦那様」

思わずアンジェリークの言葉に声を詰まらせたベルナールは小さなため息を吐いた。

「・・・・・・それは反則だよ、アンジェ」

ベルナールが肩を竦めたのと同時に、はらり、と白い粒が空から舞い降りる。
白い花の欠片だった。

「あ・・・・・・雪だわ・・・・・・・・・」

見上げた空は青いものの、はらりはらりと雪の結晶が降り注ぐ。
珍しい光景にただただ二人の視線は雪の華に釘づけだった。
まるでライスシャワーのようにさらさらと舞う雪にアンジェリークの頬が緩む。
聖なる日にとっておきのサプライズとも言うべき雪の花はただただ二人の胸に刻み続けていた。

「綺麗・・・・・・」

「そうだね・・・・・・」

感極まって泣きそうな表情を浮かべるアンジェリークの横顔を見つめながら、ベルナールは小さく息を吐いた。華やいだ青空の下、ベルナールはアンジェリークの肩を寄せた。

「ベルナール・・・・・・」

さん、と最後まで言えなかったのは風が流れるように、さらりとアンジェリークの頬にベルナールの唇が触れたから。瞬きを繰り返すアンジェリークを見つめ、くす、と笑みをこぼした。


「愛してる、アンジェ。君を一生愛すと誓うよ」


頬を俄かに紅く染めて、アンジェリークははにかむ。
満面の笑みが舞う雪のように空に溶けた。




幸せに。

仲間達の言葉がアンジェリークの耳に響く。
誰よりもアンジェリークが幸せになることを願った人達へ。


――――私、きっと幸せになります。






*あとがき*
ネオアンで、ベルアンです。これ、実は大陸祭典の一日目の夜に浮かんだネタでした。
興奮のあまり、ネタが降ってきすぎて自分でどうしようって戸惑ったのを覚えています。
レインはある意味オフでも書いてるので、ベルナール兄さんはびっくりでしたね。
短編ネタは兄さん意外と浮かんでいるので、少しずつ書けたら良いなぁと。
でも、ある意味浮かんでるネタは新婚さんネタだから、どうまとめようかと悩み中だったりします(笑)アンジェリークに幸せにと言った皆の気持ちは私からの代弁でもあります。
兄さんと、幸せに(笑)