傍に行きたいのに、傍に寄るとどうしても落ち着かなくて。
触れて欲しいような、触れて欲しくないような、曖昧な気持ちがふわふわしている。
どきどきと高鳴る胸の音が少しずつアンジェリークの心を支配しようとしていた。
「アンジェ?」
「な、何かしら?」
びくっと肩を揺らしたアンジェリークにレインは眉をひそめた。
「オレ、何かしたか?」
「い、いえ。何もしてないわ?」
「その割にはなんか変だよなぁ、よそよそしいって言うか」
「そ、うかしら?」
じわりじわりと汗がアンジェリークの手に滲み始める。
なぜこんなに緊張しているのか。
どうして鼓動は落ち着かないままなのか。
わからない、とアンジェリークは思うものの、でもどこかでそれを知っているような気がしていた。火照り始める頬が体温を上昇させ、アンジェリークの思考回路は行き止まりに当たっていた。
「本当にどうしたんだ、アンジェ?」
「あ、あの、私・・・・・・」
とうとう居たたまれずアンジェリークが駆け出そうと足を前に出した瞬間、大きな腕にその動きを封じられる。レインの腕がアンジェリークの腕を捕らえ、その勢いでアンジェリークは後ろから抱きしめられた。
暫く足と手をじたばた動かして抵抗してみるも、レインは手を離す気はないらしい。
首に回った腕が二人の距離を縮め、レインの吐息が耳元で囁く。
アンジェリークは浮上する熱が耳まで赤く染まり上げていることに気づきながらも動いて抵抗することを止めた。。
思考がぴたりと制止してしまった、と言わんばかりに黙って動かなくなる。
「・・・・・・離して、レイン」
にっとレインは口の端を上げて耳元で囁く。
「離さないって言ったら・・・・・・?」
くすくすと笑いながらレインはアンジェリークを捕らえて離さない。
アンジェリークは訳がわからず複雑な気分で視線を足元へと向けた。
抱きしめられて、ドキドキして、でもこうされるのが嫌じゃなくて。
私、どうしたらいいの。
アンジェリークの思考回路はショート寸前も同然。
レインはちょっといじめすぎたかな、と腕を緩めようと思った、まさにそんな時。
「・・・・・・離さなくても、いいわ」
目が点になり、レインは自然と腕を緩める。
アンジェリークはレインの腕が緩んだことで不思議に思い、レインを見上げた。
見上げ、その表情を見て目を丸くする。
「レイン・・・・・・?」
赤く染まる頬と耳に自分と同じような表情になっているレインがそこにいた。
「・・・・・・反則だろ、アンジェ」
ぽつり、レインは呟く。アンジェリークは聞き取れず「え?」と返した。
「いや、なんでもない」
でも、そんなわけない、とぶつぶつ言いながらオレのほうがまずい、そう言うレインの言葉の矛盾にアンジェリークは首を傾げた。
レインはアンジェリークの首に絡めていた腕を離してアンジェリークの横を通り過ぎる。
一人ぽつんと残されたアンジェリークは小さな息を吐きながら、そういえば、と思い出した。
「レインの心臓もすごく早かったわ・・・・・・」
触れられた首が熱い、アンジェリークは首を擦りながら自分の部屋へとぱたぱたと足音を鳴らして駆けて行く。
この落ち着かない気持ちをなんと言うのか。
その答えを知るのはまだ少し先のこと。二人に残る熱はじわりと心の奥を燃やし始めていた。
熱はまだおさまりそうにない。
終