気づいた時には既にその気持ちは動き出していたんだ。
いつからこの気持ちを抱いていたのだろう、首を傾げて思案しても多分、わからない。気づけばいつも隣にいる少女のことが気になって仕方なかった。
淡いベビーブルーの髪の毛がふわりと揺れる。
「あ、レイン! 今ちょうどアップルパイが焼けたところなの」
「どうりで美味しそうな匂いがすると思った」
「後で部屋に持って行くわね。待ってて」
「ああ、待ってる」
キッチンの中はリンゴの甘い香りとシナモンの香りが広がっていた。
この香ばしい匂いは自分が好むもの。
嬉しそうに微笑む少女を見ていると自分の心の中が穏やかなものが広がるのを感じていた。不思議な少女だ、と思いながらも自分がその少女をいつも守ろうとしていることに気づく。
もちろん女性だから、とかそう言う理由もあるのかもしれない。
でも、それだけじゃないことは自分でも嫌と言うほど分っていた。
踵を返して自分の部屋へと向かいながら、頭をかく。
でもそんな理由を探したところで答えは出てこないのだ。
「会った時から・・・だったんだろうな・・・・・・」
出会った時に感じた真っ直ぐな瞳。
穢れなき純粋な瞳がレインの瞳を射抜いていた。
そう、きっとあの時からだ。少女――アンジェリークに惹かれたのは。
人の痛みも理解できる、優しくどこまでも真っ直ぐで純粋な心の持ち主。
「どうかしたの? レイン」
「あぁ、ちょっと考えごと・・・ってアンジェリーク!」
レインは跳ね上がる心臓を押さえながらアンジェリークをまじまじと見つめる。
今自分が思案していたことを見透かれそうな気がしてレインは視線を落とした。
アンジェリークはそんなレインを怪訝そうに見つめる。
「大丈夫? レイン。どこか上の空だし、おかしいわ」
「え・・・あ、いや。そんなことは・・・・・・」
「そんなことはないって言うでしょうけど、おかしかったわ。一人でずっと考え込んでるようだったし、
最初はアーティファクトのことかなとも思ったけれど、そうじゃなさそうだし」
ずばり自分の胸の内を見られているようで、レインは曖昧な表情を浮かべる。
妙なところでアンジェリークは鋭い。
レインは何とか話を逸らそうと目を泳がせると、アンジェリークが持っているそれに気づいて「あ」と呟く。
「なぁ、それ持って来てくれたんだろ?」
「あ、そうだったわ。アップルパイとアップルティーよ」
「熱いうちに食べよう、アンジェリーク」
「何だか話をはぐらかされたような気がするけど・・・でもそうね。温かいうちに食べましょう」
レインは自分の部屋に入るようアンジェリークを促す。
華奢な背中を見つめながら自覚する気持ちに改めて気づく。
この背中を守るためなら、何でもする。
だから、どうかいつも笑っていて欲しい。
そう願いながらレインはアンジェリークのお手製アップルパイと紅茶に口をつけていた。
ほのかに香るリンゴの香りが鼻をくすぐる。
決意を胸に秘め、他愛のない会話を二人で交わす穏やかな午後。
この先に待ち受ける運命などまだ知る由もないとある休日のことだった。
終