気づけば好きになっていました、というのはよくあることだとサリーが言っていたけれど。
確かにそのとおりかもしれない、とアンジェリークはぼんやりと考えていた。
「ねぇ、アンジェはいつからレイン博士のことが好きだったの?」
突然尋ねられたアンジェリークは言葉に詰まり、そう言えばと考える。
暫く考えたのだが答えが出ず、「わからないわ」と肩を軽く竦めた。
「自覚した時のこととかは?」
「多分、私、レインのことが好きなんだわって急にそう思ったのは覚えているのだけど、いつって言うのがわからないのよね」
「ふーん、そんなものなのね」
「まあまあ、サリー。よくある話じゃないの」
「そうなんだけど、アンジェならわかるかしらって思ったのよ。まぁ、やっぱり恋っていつの間にか生まれているものよね。愛ってそういうものなんだわ」
うん、と頷くサリーにアンジェリークは苦笑いをこぼすと、何となくその言葉に後ろ髪を引かれたまま二人が家を去るまでアンジェリークの心の片隅にその問いは置かれたままとなっていた。
いつからなのだろう。
恋は、この想いが生まれたのは。
不思議なものだと思いながらアンジェリークは小さなため息を吐いて一人思いあぐねていた。
「好きだって思ったのも唐突だったのよね・・・・・・」
サリーとハンナが家を去った後、アンジェリークは一人悶々と考える。
レインは確かにかっこいいし、でも片づけが苦手で、ちょっと抜けてるところもあるけれど頼りになる人、そう思っていた。
何となくレインが自分に対して優しいと思うことはあったけれど、それは自分が未来の女王の卵だからだと思っていたせいもあったのかもしれない。
この人のことが好きだな、そう思ったのは多分些細なことだったような気がするけれど、もうぼんやりとしか覚えていないのもまた事実だった。
気づけば好きになっていた、それでいいと思っていたのに、なぜこんなに気になるのか。
「きっと欲張りになったからよね」
好きだと思う気持ちはいつだって溢れそうなくらいあって、こぼれてしまうんじゃないかと思うことがたびたびある。
その度にレインがいつも受け止めてくれて。
「ああ、もしかして」
ひょい、と自分の記憶から覗かせたのは小さな思い出のかけら。
レインと何度か行ったタナトス退治の時にあったこと。
何気ない言葉だったし、今でもその時の会話を思い出せるかと言われたら思い出せない。
でも言葉じゃなくて態度で何となく自分の気持ちに気づいてしまったこと。
『お前はすごいな。アンジェ』
レインの横顔が嬉しそうに笑っていて、アンジェリークは思わずその表情に見惚れた。
それと同時にレインの手がアンジェリークの頭を軽く撫でる。
『そんなお前を守れてオレは嬉しい』
レインの素直な気持ちだったのだろう、アンジェリークは「そんなこと、ないわ」と返すだけで精一杯だった。
そう、あの時確かにいつもと違ったように見えたのだ。
もしかするとあの時が自覚したキッカケだったのかもしれない。
「レインが好きよ」
多分前よりもずっとレインが好きだと言う自覚はある。
呟いた言葉に思わずアンジェリークは恥ずかしくなって頬を紅く染めた。
「オレもだよ、アンジェ」
くすくすと笑い声がしてアンジェリークは勢いよく振り返るとそこにはレインがいた。
アンジェリークは口をぱくぱく開いてレインを見上げる。
「何で、どうして・・・・・・」
「ただいま、って言っても何か真剣に考えてるみたいだから、気づくまで待ってようかと思っていたんだけどな。オレの名前が出てきたからびっくりした」
苦笑いを浮かべてレインはアンジェとの距離を縮める。
「ついでに告白もしっかり聞いたからな」
「レインの、意地悪」
顔を真っ赤に染め上げたアンジェリークは唇を尖らせて視線を逸らすと、レインの手がアンジェリークの手を捕らえた。
捕らえた手はアンジェリークとの距離をぐっと近づけ、気づけばすぐ傍にアンジェリークが立っていることにレインは気づく。
そしてそっとアンジェリークへの想いを口にした。
「好きだ、アンジェ」
口にした言の葉はアンジェリークを優しく包み込む。
「レイン・・・私も好きよ」
いつからなんて関係ない。
好きだと気づいた時にはもうとうの昔に自分の深いところまで入り込んでいて、この人でなくちゃダメだとさえ思うようになった。
レインがいてくれたらそれだけで嬉しかった。
たとえ自分の身を犠牲にしてもいいとさえ思ったこともあった。
それぐらい愛しくて、大切な人。
「ああ、知ってる」
「そうよね」
くす、と笑みをこぼしてアンジェリークは頷くとレインはゆっくりと顔を近づけて柔らかな唇を奪う。
優しく触れたキスは甘くて、今にも溶けてしまいそうで。
そんな愛しい仕草にいつだって翻弄されている。
気づいた時には好きになっていた、それが恋というもの。
恋の始まりは、やっぱりわからない。
終