それはある意味至福の時――――。
青い空の下、太陽の光が降り注ぐ午後にアンジェリークはレインと共にとある場所へと足を踏み入れた。
雲の白さとはまた違った意味で白いそれにアンジェリークは触れる。
ひやりと指先から熱を吸い取られ、いつの間にか自分の指先が少しだけ冷えていることに気づいて、アンジェリークは指先を離した。
小さく息を吐き、アンジェリークは少し離れた場所で歩みを止めて天井から建物の柱まで見入るレインを見つめる。
秘めたるは探究心に満ちた目。どこか少年のような瞳にアンジェリークは目を細める。
アンジェリークの視線に気づいたのか、レインはふいにアンジェリークの方へと視線を移した。
「そろそろ出ようか」
レインの声にアンジェリークははにかみながら小さく頷いて答える。
「ええ、そうね」
行きましょうか、そう言いながらアンジェリークとレインは建物の外にある世界を見据えながら足を外の世界へと足を踏み入れた。
刹那、その眩しさにアンジェリークは目を細める。自然の光である太陽が大きく広がる木の間から差し込んでいた。
緑の香りと太陽の香りが二人の鼻をくすぐる。
「眩しい・・・・・・」
木の隙間から見える光、青く染まる空。
どれもがこのアルカディアにとって大切なもの。
守りたいと願う、大切な大地。
なくしたくない大切な人が傍にいる。
ちらりとアンジェリークはレインの横顔を見つめた。
「どうした?」
アンジェリークの視線に気づいたレインが小首を傾げて尋ね、アンジェリークは少しばかり頬を赤に染めた。
「・・・・・・何だか、今日のレインは違うから困るわ」
口を尖らせて視線を逸らしながらアンジェリークは肩を透かす。
レインはああ、と頷いた。
さっきから気になる視線を感じつつもあえてそれを見逃していた。
アンジェリークがちら、と視線をレインへと向ける度にレインの心が揺れる。
一体どうしたと言うんだろう、と最初は思っていたのだが、すぐ結論に思い至ったのはアンジェリークの視線がいつも顔へと向けられていたから。
「このメガネだろう?」
「わかっていたのね」
「何となく、な。アンジェが何回も顔ばかり見るから多分それだろうって思ったって言うのもある」
「私そんなに見てたかしら?」
「ああ、見てた見てた」
くくっと声を押し殺すように笑うレインにアンジェリークは口を尖らせる。
レインはアンジェリークの前に右手を差し出して言葉を紡いだ。
「そんなに違うか?」
アンジェリークはレインの右手に自分の手を重ねて答える。
違うと言うよりも、とアンジェリークは口の中で呟きながらレインを見遣った。
「・・・・・・ちょっと今までとは違っていて、言葉を口にする恥ずかしいけれど・・・かっこいいなと思ったの」
ずるいわ、レインとぶつぶつと言葉を口にするアンジェリークに、レインは握った手を引き寄せる。
引き寄せるのと同時にやさしい風がふわりと舞い、あたたかなぬくもりと共に抱かれる。
それは永遠になくしたくない大切なもの。
「・・・・・・だから、ずるいんだわ」
ぷい、とアンジェリークの顔が横へと反れ、レインは華奢な身体を大きな腕で抱きしめた。
抱きしめると同時にレインはそっと耳元で囁く。それはアンジェリークだけにしか紡ぐことのない言葉。
「そういうお前の顔が一番ずるいって知ってたか?」
愛しい人へ。
優しい言葉で抱きしめて。
一つ一つの仕草で心を奪い、奪われる。
たった一つの言葉の魔法を口にして。
それは二人だけの秘密。
瞳の奥に秘める想いがやさしく囁くように言葉を紡いだ。
終