初めて思ったんだ、愛しいだなんて

正直な話、こんなにも愛しい存在ができるなんて思っていなかったんだ。
愛しい、愛しい、大切な彼女――それがアンジェリークと言う存在。



「ねぇ、レイン。この本はこっちに置けばいいのかしら?」

「ああ、そうだな。そこに置いてくれ」

たくさんの荷造りをした物が部屋の中へと運び込まれると本棚へレインが片っ端から片付け始めた。
レイン自身がわかるようにと思って並べられる本はほとんどが研究に関するもので、明らかに難しい言葉が並べられているものが多いなぁとアンジェリークは密かに思う。
だが、当のレインはと言うとそれを難しいと思っていないところがすごいなぁとアンジェリークは感心するのだった。
廊下に置かれていた本が少しずつレインの傍に並べられてゆく。

「アンジェ、無理はするなよ?」

「大丈夫よ。だって私レインのために何かしたいんだもの」

きっぱりと言い放つアンジェリークに、レインの瞳が思わず小さく揺れた。
ああ、これだからアンジェリークの言葉には油断できない。
レインは思わず頬が緩みそうになるのを抑えながら、本の山を片付けてゆく。

「レインってすごいわ」

「アンジェ?」

「だって、たくさん勉強して人のためになるアーティファクトを作ったりしているんだもの。すごくね、羨ましいって思うの」

アンジェの率直な想いに思わずレインは軽く自分の下唇を噛んだ。
そうでもしなければ胸を熱くする想いが溢れてきそうで、それを抑えるためにレインは唇を引き結ぶ。

「レインはたくさんの人を幸せにしてくれる。私もレインの笑顔のために何かしたいって思うわ」

「そんなこと・・・・・・アンジェはオレに笑顔をくれるだろう?」

レインの手はゆっくりとアンジェリークの腕を掴んで引き寄せた。
ぽすん、とアンジェリークの身体はレインの腕に包まれる。

「傍にいてくれるだけでオレは嬉しいんだ。アンジェがいるからオレは人のために役立つアーティファクトを作りたい、そう強く思うようになったんだよ」

「私が・・・・・・?」

それはアンジェリークも予想していなかった言葉。レインはぎゅっと華奢な肩を抱きしめながら言葉を紡ぐ。

「『愛しい』そう思ったのはアンジェが初めてだ。こんなにも大切だと思える存在はアンジェだけだと言ったらびっくりするか?」

「も、もちろん、びっくりするわ!だって・・・だって・・・・・・」

レインへの賞賛の声はよく聞くのと同時に、憧れの存在としてもたくさんの女性の目に映っていた。
それを見つける度にそんなレインを誇りに思う気持ちともう一つ、小さな暗い感情がアンジェリークの中で目を覚ます。
自分がレインに近しい存在だということはわかっていた。
そして、それに対して何か思っている人もいることも知っていた。でも、その感情はアンジェリークにとって嬉しいものではない。
―――嫉妬、という感情。自分とてそれを持っていることを知っているから、余計に苦しいと思う。

「アンジェが笑ってくれるからオレは色んなアーティファクトを作りたいと思うし、研究をしたいと思うんだ。アンジェが笑ってくれる、それがたくさんの人の笑顔に繋がるってそう信じているからな」

「レイン・・・・・・」

「オレはアンジェが好きだ。好きだという言葉じゃたりないくらいだと思ってる。アンジェへの愛しいという気持ちがオレの動力源なんだ」

そっと耳元で囁くレインの言葉にアンジェリークの胸が熱くなる。そしてゆっくりと視線は上へと注がれた。
そこには見慣れた楽しそうなマラカイトグリーンの双眸が待っていて、思わずくすぐったそうに笑うとアンジェリークの額にレインはキスをする。
額から瞼へ、瞼から頬へ、頬から耳朶へ、耳朶から鼻のてっぺんへ、そして最後に交わすのは形良いアンジェリークの唇。
レインが触れてくれることがこんなにも嬉しいだなんて知らなかったアンジェリークはただただレインのキスを受け止めていた。

「これからはずっと一緒だ」

「ええ、そうね」

ファリアンの郊外に建てた二人の家。今日からここに二人は住む。
二人だけの時間、二人だけの場所、愛しいと思う人がいてくれる、大切な処。
愛しい存在がいつも傍らにいるという幸せ。
そしてレインはあることに気づく。

「オレ、もしかすると初めてアンジェを見た時からわかってたかもしれないな」

「何を?」

抱きしめられたままアンジェリークはレインへと尋ねる。

「アンジェに初めて会った時、一目惚れをしたと言っても間違いじゃない。あの時、オレはアンジェが初めて愛しいと思ったのかもしれないな、とふと思ったんだ」

「・・・・・・私もそうかもしれないわ」



『初めて思ったんだ、愛しいだなんて』
―――初めて愛しいと思う存在に出会ったあの日からきっと、二人の恋は始まっていたのかもしれない。




ファリアン郊外に家を買って住み始めた、引越しした当日のことです。
ラブモード全快な二人を書きました。あ、ラブ足りない?
それは私だから勘弁してください(笑)。
ネタないと思いながら書けるレイアンがすごいと思う。愛の力は偉大だ(何が)。
このお題は『シュガーロマンス』さんから頂きました。