ぶるり、外の空気に頬が触れると思わず身震いをした。
予報どおり寒い夜を迎え、思わず眉間に皺を寄せた。こういう時ぐらい予報が外れてもいいのに、と思わず思いながらチナミは隣で頬と鼻の頭を赤くしている少女へと目を向ける。
「うー、やっぱり今日は寒いねー」
「まぁ、予報どおり寒くなると聞いていたが・・・・・・」
「こんな時ぐらい外れてくれて良いんだけどなぁ」
同じようなことを思っていた少女の一言に思わずチナミは苦笑した。何だ、考えることは同じなのか、そう思ったら何だか可笑しくて仕方ない。
ぷっと思わず噴出したチナミを見つけ、少女はきょとん、と不思議そうなまなざしを向ける。
「チナミくん?」
「いや、何でもない。・・・・・・ゆき、」
チナミは自然と手を差し出し、少女――ゆきもまたその手を取る。それが当たり前のように、当然のように受け止めたゆきはふわりと笑みを浮かべてチナミを見上げた。
ゆきの手の感触を確かめるとチナミはその手を取って歩き出す。
「それにしても結構いろいろと食べたよね。私お腹いっぱい」
「ゆきにしては珍しくたくさん食べていたな」
「だって、どれも美味しそうだったんだもん。やっぱりビュッフェはいろいろとあって迷っちゃうなぁ」
「ゆきのご両親には感謝している。いくら無料券があるとはいえ、オレたちにくれるなど」
「せっかくあるんだしってお母さんがね。使わないよりはマシだって言ってたの」
昔であれば都と、や祟と、というに違いなかった。瞬兄はいつも忙しくて家にいないことの方が多いから選択肢から外れる率が高いとはいえ、今年はチナミと行くように言われたのは数日前。
『どうせなら一日ぐらいゆっくりと二人で食事をしてきたらどう?』
母はのんびりとした口調で言い、じゃあお言葉に甘えてとゆきはそのチケットを貰った。チナミがこの世界に来てもう一年、つまりはもう一年も付き合っているということになる。
相変わらず学ぶことに熱心なチナミは色んなものに感心し、いろんな知識を吸収してたくさんのものを身につけるのを隣で見る度に、その成長が早いと感じていた。
最初の頃は手をつなぐことさえままならなかったのに、とゆきは思う。今では自然に手を繋いで外を歩くようになった。
今もなお、手を握り締めながら夜の寒空を仰ぎ見るチナミの横顔を盗み見ながらゆきは、小さく笑みがこぼれ落ちる。
そんなゆきの瞳にあるものが映った。
「あ」
ゆきの声はもちろん、チナミもまたくい、と高い空を見上げる。
見上げた先にあったものは暗い闇色に広がる空の中から落ちてくる白い結晶だった。
「チナミくん、これ・・・・・・」
「ああ、そうだな・・・・・・」
ちらりと空を仰ぐと白いそれがひらり、はらりと舞い降りてきたのをチナミは見つけ、思わず白い吐息を漏らした。
どうりで寒いはずだとチナミは一人納得する。
空から舞い降りてくるのは白い結晶――雪だった。
予報では寒くなることは言っていても雪が降るなどとは聞いていない。きっと予想外のハプニング。
何度も見慣れているはずのものなのに、自然と足が歩みを止め、それを見つめていた。今年初めての雪が舞い降りる。
「雪・・・綺麗だね・・・・・・」
「そう・・・だな」
寒くて仕方ないはずなのに、雪を見るとどうしてこうも心が奪われるのか。
寒いのだから帰りたいと思っているはずなのに、足が立ち止まる。
「ねぇ、チナミくん」
「うん?」
「私ね、こうやっていろんなものをチナミくんと見ていけたらいいなって思うの。明日も明後日も、一年後も十年後も、おじいちゃんやおばあちゃんになっても」
「ゆき・・・・・・」
「それぐらい一緒にいたいなって思うよ」
えへへ、と俄かに頬を紅く染めながらゆきは言葉を口にする。はらり、と落ちてきた雪は頬の熱に当たり、すぐに溶けた。
その雫をチナミはそっと手を伸ばして手を繋いでいない方の手で拭う。
「・・・それはオレの台詞だ。オレもお前と共に色んなものを見ていきたい。いつか死ぬ、その日まで」
それは永遠の約束。
二人、どちらか一方が欠けるまでの願いであり祈り。
「・・・うん、そうだね」
空から舞い降りる雪を仰いで二人は自然と肩を並べて歩き始める。
時折冷たい雪が頬に触れるが、それさえも少し冷たく感じるだけでそれ以上に頬が熱かった。
ずっとこれからも一緒に。
一生傍にいたい、その気持ちが二人の心の奥を満たしていく。
そう、それは自然と出てきた永久の約束。
きっとお互い、プロポーズめいたことを言っていたことに気づくのはもう暫く先の話。
終