その艶やかな笑みは何よりの至福の時―――。
「九郎さんの髪の毛ってかわいいですよね」
思わず耳を疑いたくなるような声に九郎は眉間に皴を寄せた。
「はぁ? お前は何を言っている?」
「だって、そう思うんだもん。仕方ないじゃないですか」
口を尖らせながら九郎の髪の毛を一房掴んで望美はぶつぶつと文句を口にする。
九郎は一つため息をつくと望美の髪の毛を一房掴んだ。
「俺は、お前のきれいな髪の毛が好きだぞ」
「それって髪の毛だけですか?」
「・・・・・・お前なぁ。今何の、」
「髪の毛だけ?」
尚も望美は上目遣いで見つめ、九郎は一歩だけ後ろに下がった。
手は髪の毛を掴んだままで。
「え? あ、いや・・・・・・」
九郎が困った顔をするのを見て、望美はきっと睨みつける。
そうして小さな声で呟いた。
「九郎さんの意気地なし」
さすがの九郎も望美のこの言葉にはムカッとしたらしく、ぐいっとその髪の毛を引っ張る。
「きゃっ・・・・・・」
バランスを崩した望美の手を掴むと九郎は望美の言葉を奪った。
甘い吐息が望美の口から漏れて、這うように九郎は口付ける。
麻痺しそうな熱に望美は何も応えることが出来ない。
ようやくその唇を離すと、望美は潤んだ瞳できっと九郎を睨みつけた。
「や、やりすぎっ!」
「望んだのはお前だろ?」
「そんなこと言ってないもん!」
ぷぅっと頬を膨らませて望美は九郎に抗議をした。
そんな望美を見て、九郎は肩を竦める。
この髪の毛のように真っ直ぐな瞳はどこまで本気にさせるのか。
先ほどだってギリギリの理性で離したというのに。
「・・・・・・バカはお前だ、全く」
九郎の小さな声は望美に届くことはなかった。
終