好きになってはいけない、そう思っていたから。
触れないで、そう思っていたはずなのに。
「弁・・・慶・・・・・・殿っ」
後ろから抱きしめられて、腕が離れなくて、胸がきりきりと痛む。
あの人だけを愛していければ良かったのに、どうしてそれが叶わないのか。
きっかけは些細なこと。自分でもうかつだったとは思っていたけれど。
「朔・・・・・・殿・・・・・・」
抱きしめられた腕に熱が帯びる。
離して欲しいはずなのに、それを望まない自分もいて、訳がわからなくなった。
思考回路だってきっと今はまともじゃない。
切実な声音に、どうしてその腕を離すことができようか。
「痛い・・・わ・・・・・・」
「すみません・・・・・・もう少しだけ、このままで」
切なる願いを口にする声音が震えていた。
どうして、あなたは。
真実を知っても尚あなたはどうして。
「あなたは、バカよ・・・・・・」
「知っていますよ・・・・・・」
小さな声が背中越しに返ってきて、思わず瞳を閉じた。
合い入れないはずなのに、惹かれてしまう自分に気づいて泣きたい衝動に駆られる。
けれど、そこで泣いたら終わりだと言い聞かせて眉を潜めた。
腕の力が抜けて離れるのはしばらく先のこと。
そのぬくもりが少しだけ恋しいと思ってしまったのは胸の奥にしまい込んで。
終