世界の終わり、
始まりの緑

草の上を踏む音にぴくりと耳が傾けられ、鼻は緑の香りを吸う。
常世の大地に茂る緑が生を噛み締め始めた証拠だった。


「あなた方が、欲していた、願った世界は今ここに蘇りましたよ」


小さな声音で呟いた言葉は凪ぐ風に攫われ、大地に吸い込まれてゆく。
あれほど祈っていた世界、願った者達は静かに大地に眠っていた。
遠く、どこまでも続く緑の大地の先に見えるのは未知なる未来であり、そこにはあの二人の姿はない。
二人が生きていける世界を、そう願ったのはもう何年も前の話。
まるで遠い昔のようで、でも昨日のように覚えている記憶。

『姫と共に生きていけるなんて思っちゃいないよ』

小さく笑う彼の顔があの日のままに蘇る。

『でも、このまま終わらせるのも嫌なんだ』

諦めないと顔に書いている友の顔に「そうですね」と相槌を打って返した自分の姿。

『無駄かもしれない。でも無駄じゃないかもしれない。―――諦めない。諦めたくなんかないんだ』

力強く言の葉を口にした友は大地に帰った。
既定伝承の言葉通りに、彼は斃れた。恋人の隣で、地に斃れた彼の横顔を忘れたことは一度もない。

『あなたは未来が見える分、辛いわね』

いいえ、姫の立場に比べたら、そう返した自分の言葉に中つ国の一の姫は答える。
真っ直ぐ前を見据えた瞳は言葉をゆっくりと唇で綴った。

『柊、あなたは優しいから』

自分を優しいと口にした一の姫の言葉は意外で思わず目を瞠った。
優しい?
自分が?
顔にそう書いていたのだろう、くすくすと笑って言葉を継いだ。

『吃驚したのかしら? でもあなたはあなたが思っている以上に優しいのよ』

気づいていないだけだと思うけれど、言葉を続ける一の姫の表情は柔らかい。

『だからね、柊、あなたはあなたの道を選んで。既定伝承など破ってしまえるくらいに強くなって』

自分の口をついて出た言葉はたった一言。

『ええ。そうですね』



やがてこの緑の大地には花が咲き、四季が綴られるようになる。
二人が愛した世界、この地に自分の足が踏み入れ空を見上げているのが不思議だった。


「二人とも見ていますか」


あなた方が欲した大地を。祈った優しい時間を。
何よりも一番願った平穏を。

「柊? そろそろ橿原に行くと千尋が」

「姫は相変わらずせっかちですね」

くすりと口の端を上げて金色の髪を揺らす姫を瞳の奥に映し出す。
一の姫が一番心配だと言っていた少女はこんなにも頼もしくなった。

『あの子はね、正直なの。私にない正直さを持ってる。真っ直ぐだわ。・・・・・・少し羨ましいくらい』

あなたそっくりですよ、柊は口の中で呟いた。
同門の友である風早に呼ばれ、周囲の景色を一瞥すると踵を返して歩き出す。
安らかに永久の眠りにつく二人へ掛ける言葉は大地へと吸い込まれる。
この地を緑に変えられなかった友たちの亡骸はこの地に沈んでいる。
もう数年も前の話。

二人へ最後の祈りを捧げ、柊は歩き出した。






*あとがき*
柊はなぜかカップリングじゃなくて過去回想(苦笑)
っていうかごめんなさい、所詮羽張彦と一の姫好きなものですから。
んで未来の今から過去へと問う柊。
いつか同門の話が書きたいです。羽張彦と忍人を書いてみたい。んで柊と風早とのやりとりも書きたい。