【01.笑顔】 (安心できる5題より 1141)
意外と優しいんだなとか、そういうのは後から気づくけど。
けれど、笑顔を見た時、ちょっとだけ驚いた。
そりゃあ、誰もが笑うのはわかっていたけど、ちょっと反則だ、って思ったのだ。
いつも文句ばっかりで、ムカつくことの方が多かっただけに反則だったんだ。
だって、口を開けばいつも文句しかなかったんだよ?
意外だって思うじゃない。
そんな、顔、されたら。
「気持ちがいいな」
ふわりと微笑んで、あたしを見つめるその瞳に惹かれる。
「さっき、白龍に教えてもらったんです。私が暑い、暑いって文句言ってたから」
「確かに緑がないと暑いな、ここも」
「でしょう? で、どうせなら九郎さんと一緒に行きたいなって思ったから」
「そうか。すまないな、望美」
「ううん。喜んでもらえただけでも嬉しいなって思うし」
ほら、笑うその顔が優しくて。
前にはなかった、こんな表情。
ことり、と胸の奥が熱くなってドキドキと鼓動が早くなる。
最初は本当にムカつくって思っていたのに。
いつからだろう、一つ一つの表情が気になり始めたのは。
私は、九郎さんのことが――――。
まだ言えない言葉。
この戦いが終わったら、告げられるようにと願って、私は九郎さんを見つめていた。
終
◇ ◇
【02 泣きじゃくる君の背を(九望)】
私は嫌なんだ。
あなたが居なくなるなんて絶対に嫌なんだ。
はっとして目が覚めたらそこは現の世界。
だらりと流れる汗に望美は荒れた呼吸を整えた。
「いやだ・・・いやだ・・・・・・」
ぎゅっと自分の腕を抱き寄せてぽろぽろと涙をこぼす。
もうそんな心配の必要などないことはこのぬくもりが一番覚えてるのに。
もう離さないと、誓ったのに。
「望美?」
優しい声で私の名前を呼んで、大きな手が私の手を捉える。
「悪い夢でも見たのか?」
ううんと素直に首を振ることはできなくて、
我慢できない涙の雫をただ流す。
「大丈夫か?」
「く、ろう・・・さん・・・・・・」
後ろから抱き寄せられて、私はその腕を掴む。
その腕に安心して、その涙をこらえることができなくて、
私はあなたがいて良かったと心から思う。
「望美・・・・・・」
擦り寄るように、その腕にしがみついて。
切なる願いを言霊に託す。
「大好き・・・・・・・」
あなたがいればなにもいらない。
ただ、傍にいてと願う気持ちを募らせていた。
終
◇ ◇
【03 花と指輪(弁朔+九望)】(花とセットで贈る5のお題 Noisy Rain)
「望美?」
親友の様子がおかしいことに気づいた朔は思わず首を傾げて顔を覗き込んだ。
俄かに頬を紅く染め、手には小さな花束を持っている。
「・・・・・・それは九郎殿から?」
小さく頷いた望美に朔の目は細くなった。
「これも、貰ったの」
そこにあるのは小さなリング。朔はそう、と笑う。
「行商の人から買ったんだって。それを見て思い出したって」
言ってたの、望美は言葉をこぼした。
以前望美の世界にあると言う指輪の話をしてもらったことがあった。
男性から女性へと贈る物。その意味は様々だが、左手の薬指につける意味は一つだけ。
望美の左手に嵌められた指輪を見て朔は微笑んだ。
「おめでとう、望美」
望美はありがとう、と小さく微笑んだ。
九郎がその行商に出会ったのは偶然だった。
弁慶と共に歩いていると数人の行商の人々が何やら物を広げていることに気づいた。
珍しいですね、と弁慶は微笑み、そうだなと九郎は答えた。
ちらりと目を遣った先に見えたのは小さな輪が二つ。指に嵌められそうな物だった。
西の方から仕入れたのだと言う行商の話にああ、と九郎は思い出す。
それは以前望美が言っていた言葉の中にあった。
『左手の指に嵌める小さな輪があるんです。指輪って言うんですけど、左の薬指にそれを嵌めると特別な意味を持つの』
互いの気持ちに変わりはないのだと、一生傍で生きてゆくことを誓うそれは望美の憧れだった。
望美の表情がそう言っていることに九郎はすぐに気づいた。
今偶然にもそれを見つけて九郎は思わずそれを手にする。
それからすぐに望美の手に嵌められることになった。
「素敵よね、二人とも」
「ええ。そうですね」
朔は小さくはにかみながら望美の幸せそうな顔を思い出す。少し泣きそうになっていたことに朔は気づいていた。
弁慶は空を見上げている朔に気づいて傍に寄ると、朔は小さく呟いた。
あの時九郎と一緒にいた弁慶ならばそばにいてわかるだろう、と。
「あなたも憧れますか?」
「え?」
そう言って弁慶の服のポケットから取り出したのは望美が持っていたそれと酷似していた。
まさか、と朔の瞳が弁慶の瞳を捉える。優しく微笑む瞳が答え。
朔の手をそっと取るとそれを左の薬指に嵌める。朔はじっとその様子を見ていた。
何でこの人はわかってしまうのだろう。
「あなたの傍であなたを守りたい、そう思っています」
傍にいて欲しいと願っても良いのか、弁慶の問いに朔は破顔する。
不意打ちだ、と朔は思っていた。いつもこの人はずるいのだ。
「・・・・・・お願いしても良いのかしら?」
「ええ、もちろん」
その笑顔に二言はないと弁慶は誓う。
薬指に嵌められた指輪が誓いに嘘はないのだと朔に告げていた。
草原の中で風に揺られながら、二人は寄り添う。それは数年後の未来も、その先の未来もずっと一緒だということ。
この指輪だけが二人の未来を知っていた。
終