「今日って何の日か知ってますか、九郎さん」
突然降って沸いた言葉に九郎は思わず声を詰まらせた。
何を、と言いかけた九郎の表情に望美はめげずに問う。
「今日って何の日でしょう?」
「何の日って言われても、わからないんだが・・・今日は何の日なんだ?」
訝しげな眼差しを向けて九郎は問う。
望美はぷぅ、と頬を膨らませてじっと九郎を見上げた。
「質問を質問で返した」
「わからないと言ってるんだから、仕方ないだろう」
「少しは考えてくださいよ」
「考えるも何も、そう言った類を俺が覚えているわけないだろう」
確かに尤もなことを返されて、望美は頬を膨らませたままでいる。
そして諦めたように、膨らませた頬の空気を抜いて言葉を口にした。
「まぁ、わかっても九郎さんのことだからできないってわかってるんですけどね」
ため息交じりの声で望美が返し、最初から否定された九郎はと言うと、いささか不満だったのか、眉間に薄く皺を寄せた。
「最初からできないと決めるのは良くないと思うが?」
「でも絶対に九郎さんはできないもん」
「だから何なのかわからないと、できないかどうかなんてわかるわけないだろうが」
ちら、と望美は九郎を見つめ、九郎はと言うと両腕を組んで望美の答えを待つ。
あの九郎ができるとは思えないけれど、と一つため息を吐いて望美は答えを口にした。
今日、5月23日は。
「今日はキスの日なんです」
「は?」
「5月23日は初めて映画でキスシーンが公開されたから、と言う理由みたいです。ね、九郎さんにはできないでしょ?」
だから言ってるのに、と望美はぶつぶつ呟きながらソファに寄りかかった。
九郎はと言うと望美の答えに言葉を詰まらせる。
まぁ、できるわけないと望美に言い切られた九郎としては、それもどうなんだと言いたいわけで。
「望美」
「はい?」
答えたと同時に腕を掴まれ、抱き寄せられると大きな影が望美を覆い被さった。
え、と呟きそうになった言葉は九郎が飲み込む。
重ねた唇は少しだけ震えていて、驚きながらもキスを受け入れた。
長いキスの後、少しばかり離れた唇は再びせがむようにキスをする。
数回重ねたキスの後、望美は九郎を見上げて呟いた。
「ムキになりました?」
「別に。したいと思ったからしただけだ」
ぶっきらぼうに返す九郎に望美は小さく笑う。
「キスってイチゴ味なんだって言ってましたよ。甘いんだって」
くすくす笑う望美に九郎は小さなため息を吐きながら言葉を返した。
「そういうお前はどうなんだ?」
そう返されるとは考えていなかったのか、望美は少しだけ頬を紅く染めて九郎を見つめた。
「・・・・・・甘い、です」
溶けるような甘い味。
それが、恋人がくれるキスの味。
重ねた唇が伝える恋の甘さ。
「そうか」
それ以上言葉にすることはなかったけれど、九郎は望美を抱きしめてそう呟いた。
5月23日はキスの日。
それは恋人たちの甘い記念日。
終