「似ていますね」
ぽつりと呟いた柊の言葉に千尋と布都彦は思わず顔を見合わせると、柊へと視線を向けた。
その視線に今気づいたと言わんばかりに「ああ」と声を漏らすと、柊はその先の言葉を紡ぐ。
「あなた達二人は・・・・・・あの二人に似ています」
それはかつていた柊の良き友人達。千尋と布都彦がその二人を指していることに気づいたのは少し間を置いてから。
「羽張彦と、一ノ姫に」
千尋と布都彦の息が呑まれたのも無理はなかった。
「姉さまと?」
「兄上と?」
二人の声が重なるのは同時で、柊は思わず苦笑いを浮かべる。
千尋も布都彦も重なる声と同時に俄かに頬を紅く染め、柊を見つめる。
柊はええ、と頷くと言葉を続けた。
「でも、私と姉さまはそこまで似てな・・・・・・」
「外見は、でしょう?」
千尋の言葉の上にすぐ重ねて柊は否定した。
「布都彦、あなたもです」
「私も、ですか・・・・・・」
何とも言えぬ二人のよくわからない、と言う空気に構わず柊は目を細めて呟く。
「あなたがたの意思の強さは二人に負けないくらいですよ。そういうあたりが似ている、そう思うのです」
「あ・・・・・・なるほど」
千尋は柊の言葉に頷き、布都彦もまた納得がいったのか小さく頷いた。
でも、と柊は千尋と布都彦を見つめて羽張彦と一の姫を思い浮かべる。
何が似ている、といえば自分が先ほど挙げた点に他ならないのだが、それ以上に似ていると思ったことがあった。
「あなたのその瞳ですよ、我が君」
「私の目?」
「まっすぐな瞳、一ノ姫もそのまっすぐな瞳で前を見ていました」
揺るぎない想いをいつもその胸に仕舞いながらも、瞳は力強く前を見据える。
この国の未来を想い、大切な人を想うその眼差しは誰よりも優しく強い。
そして、千尋もまた強い眼差しを持っていた。
「布都彦、あなたもその目が羽張彦そっくりです」
意外と負けん気で、少しずる賢いところもあったけれど、優しくいつも見守っているその瞳。
大切なものを守るためなら迷いはない、その強き深い瞳は、柊にとって羨ましいとさえ思わせた。
「私の目・・・ですか・・・・・・」
二人とも予想しなかったのだろう答えに驚きを隠せずにいる。
柊はくす、と笑って「ええ」と頷いた。
それに、もう一つ似ていると思っていることが柊にはある。
二人が出す合図、それが非常に似ていた。
羽張彦と一ノ姫も視線が絡むとどことなく二人にしかわからないであろう眼差しで頷く瞬間があった。
何に対して頷いているのか柊にはわからない。
でもそれだけで理解している二人の姿と重なって見えたのは事実で、柊はひどく驚いたのだ。
一瞬二人がいるのかと思うくらいに。
敢えてその話は柊の胸に仕舞う。千尋も布都彦も怪訝そうな瞳でお互いを見つめているもののよくわからないのだろう、軽く肩を透かして諦めた。
「わからないけど、柊が言うならそうなのかもしれないわね」
「ええ、そう思って下さって構いません。では、そろそろ私は下がります」
「あ、うん。ありがと、柊。文献探すの手伝ってくれて」
「いいえ。我が君のお望みとあらばいつでも仰って下さい」
そういって柊は軽く会釈をすると部屋を後にした。千尋も布都彦もぼんやりと柊を見送る。
柊の姿が見えなくなったところでもう一度お互いの瞳を覗き込んだ。
「柊の言ってること、少しわかったけど、少しわからないわ」
「確かにそうですね。兄上と似ていると言われてもぴんときません」
布都彦は苦笑いを浮かべ、千尋は小さく笑って答えた。
「自分のことはわからないけど、でも柊の言ってることなんとなくわかるような気がする。最近の布都彦って前に比べて大人っぽくなったって感じがするし」
「私がですか?」
「うん。私の感想だから気にしないで。そう思っただけだし」
「いえ。でも確かに自分のことはわかりませんが、姫のことはわかるような気がします。一層美しくなられたなと思いますし」
何よりもただでさえ人目を引くのに、更にそれが強くなったような気がした。
大人の女性になっているといった方が正しいのかもしれない。それが柊にとって一ノ姫に似てきた、と言うことなのだろうかとも布都彦は思う。
「それを言ったら布都彦だって」
千尋はぷい、と顔を横に逸らしながら唇を尖らせて小さな声で呟いた。
「・・・かっこよくなったもの。冷や冷やするんだから」
頬を紅く染め上げ千尋は言う。布都彦は苦笑いを浮かべて「その言葉、そっくりお返しします」と返した。
「いつも冷や冷やしていますよ。あなたは綺麗だからいつ誰のものになるかもわかりませんし」
自分とは違って身分相応の人が現れたら自分は敵わないだろう。せめて、今一緒にいられる時だけでも、と布都彦は思うのだ。
布都彦の言葉に千尋は下唇を軽く噛む。
「そんな、淋しいこと・・・言わないでよ・・・・・・」
あなた以外に好きになる人なんていないのに。
どうしていつもそうやって言うの。
言外に匂わせて千尋は呟くと、布都彦は困った顔をして千尋の頬に自分の手を当てた。
そっと触れた手に驚きながらも千尋はその手に自分の手を重ねる。
「すみません、姫」
「ううん、私の方こそごめんね」
触れた指先から伝わるぬくもりに千尋は小さく微笑む。
布都彦もまた微笑んで千尋の瞳に応えた。
言葉では言えない想いを指先から伝えて。
瞳と瞳が交わす言葉が二人の言葉の代わりになるから。
終