好きで好きでたまらなく好きで。
この想いを手放す勇気なんてないのだから。
愛おしいと思うのはこんな瞬間かもしれない、そう望美は思いあぐねながら彼の人を見つめる。
端正な顔立ち、といった方がいいだろうその横顔は思わずため息をつきたくなった。
実際出たのは小さな吐息。頬が少し冷たかった。
「・・・・・・神子?」
「あ、また言った。『望美』、ですよ?」
癖になっているのか、未だに気を抜くと名前を呼んではくれない。
こちらに来てからの日数とあちらにいた時の日数を考えると当然といえば当然だけど。
わかってはいるものの、少し口を尖らせて抗議をした。
「もー、敦盛さん。慣れましょうよ」
「すまない・・・・・・」
少ししょんぼりしてしまう彼の人――平敦盛を見ていると思わずぎゅっと抱きしめたくなる。
望美はそんな感情を抑えてさぁと腕を引っ張った。
「もうすぐで時間ですよ。行きましょ」
笑顔で言葉を口にするとそれに応えるように敦盛の顔に笑顔が灯る。
一瞬その笑顔に見惚れて、言葉を詰まらせるも何もなかったように前を向いて歩き始めた。
珍しい時間に出歩いているせいなのかもしれない、不思議な高揚感が望美を包み込む。
大好きな人とこんなに夜遅くに出かけられるのは今日が一年で最後の日だから。
「ほらほら、並んでる」
もうあと15分もすれば次の年を迎える。
そのような行事は平安時代末期には存在しなかったと言っていた敦盛にとって初めての行事。
クリスマスも驚いていたけれど、こっちも驚いていた。
「さ、並びましょ」
望美に促されるままに敦盛も鐘を突くその列に並んだ。
ゴーン、ゴーンと梵鐘があたりに響き渡り、その音はどこか落ち着かせる雰囲気があるなと望美は一人ごちた。
それは敦盛も同じだったようで。
「この音は落ち着くな」
「でしょ? 敦盛さんならこの音好きそうだなって思ったんです」
ふふっと笑うと敦盛ははにかんだ様な仕草を見せた。
いつだってこの人には目を奪われ、愛おしい感情があふれる。
彼を、敦盛を好きになって良かった―――。
望美はしみじみとそんなことを感じながら自分たちの番がやってきたのを見て腕から手を離した。
少しそのぬくもりが残っていて、妙にその部分が熱を帯びていた。
敦盛が一つ突き、望美がその次に突く。
石段を降りて、人気の少ない場所を選んだ。
あと数分で次の年が巡って来る。
二人で少し離れた場所からそれを見守っていた。
唯一互いのぬくもりを感じるのはその手で、手に少し力を込めると敦盛のぬくもりが返ってくる。
「3・・・2・・・1」
秒針は12を示し、そしてすぐに新しい時を刻んだ。
「あけましておめでとうございます、敦盛さん」
「あけましておめでとう、望美」
視線が交差し、意味もなくこみ上げる笑みで互いを見つめた。
それが合図。
交わした瞳が静かに閉じられ、ゆっくりと近づく影に身を預ける。
互いの唇が重なった。
軽いキスを交わし、瞳を開くと優しい眼差しが返す。
好きで好きでたまらなくて、この想いを手放す勇気なんてなかった。
大好きなのだと自覚するよりも先に愛おしいと思う想いの方が強かったあの時。
時空を超えた想いは永久に続くと信じて望美はその腕をぎゅっと抱きしめた。
出会えて幸せだと心から呟いたことに気づいたのは数秒後。
望美も敦盛も同じ気持ちで夜に染まる月を見上げた時に告げた言葉が答え。
終