どうしようもなくあなたに恋焦がれているから。
力になりたい、守りたいそう思うのは、私の我侭だとわかっているけれど。
守られてばかりじゃ嫌だった。
自ら剣を使うことを選んだのだから、この手が血に染まろうとも選んだことを後悔などしない。
そう言ってるのに。
「お前は馬鹿か!?」
「嫌だって言ってるじゃないですか。私だって行く!」
「お前はここに残れ。これは命令だ」
「嫌! 我侭だろうと何だろうと私は行くって言ってるの!」
京の町で怨霊が出たという報を聞きつけた私達はすぐにその場所へ向かおうと立ち上がった。
しかし、少し前に放たれた怨霊を立て続けに封じたのと、その際に足を捻ってしまっていたために、
ここに朔と一緒に残れと九郎さんは言った。
「その怪我で出てどうする。足でまどいになるだけだと言ってるだろう!」
「でも、その怨霊は強いんでしょ? だったら尚のこと私が行った方がいい」
「ダメだ」
「女だからって守られなきゃいけないわけじゃないよ? 馬鹿にしないでよっ!」
「馬鹿になどしてないっ!ただ・・・っ!」
「はいはい、二人とも。その辺にしておいてください」
「弁慶さん」
「弁慶」
そう笑顔で割り込んできたのは源氏の軍師である武蔵坊弁慶だった。
やれやれと肩を竦めて私たちを交互に見つめた。
「九郎」
「何だ」
ぶすっとした顔で九郎さんは弁慶さんを見つめる。
私は苛立ちを抑えながら言葉を口にするのを止めた。
「望美さんを連れて行きましょう」
「え?」
「へ?」
これにはさすがに驚いたのか九郎さんはもちろんのこと、私までもが驚いて言葉に出来なかった。
そんな反応が返ってくるなど考えてもいなかったためでもあるけれど。
「ただし望美さんが動くのは最後の最後です。それまでは私たちで何とかします」
そうだったら文句はないでしょう、にっこりと笑ってそう言った。
弁慶さんの言葉に九郎さんは顔を背けて「好きにしろ」、と小さな声で呟いていた。
◇
怨霊は予想以上に強敵で、でも無理言って連れて来てもらった手前、私は何も言えなかった。
でも言っただけのことはあってある程度弁慶さんや九郎さんが抑えてくれた後、
私は封じの言葉を口にし、そして穏やかな眠りへと導いた。
それがつい数刻前の出来事。
ぼけっとしながら庭の外を眺めていた。
すると後ろから足音が聞こえ、私のすぐ後ろで足音はぴたりと止む。
振り返るとそこにいたのは九郎さんだった。
「ここ、いいか?」
隣を指差して私は静かに頷いた。
腰を降ろした九郎さんは私と同じく庭の外を眺める。しばし沈黙の時が流れていた。
そんな静かな空間に言葉を告げたのは他ならぬ九郎さん。
「・・・・・・すまなかった」
「九、郎・・・さん・・・・・・」
「女だからとか、馬鹿にしたつもりじゃないんだ、ただ、」
「わかってる、私もごめんなさい」
言いかけた言葉を封じるように私もまた言葉を重ねる。
とっさに言った言葉だった、あの時は何が何でも行きたかった。
置いていかれたくなかった。
恐かった。
ただその一言だけが私の脳裏に焼きついていた。
二度自分の手からすり抜けて命を絶たれたあなただから、恐くて仕方なくて。
今もまだたまに手がかたかたと震える。
ぎゅっと自分の両の手を交差して重ねた。
その手の上にふわりと暖かなぬくもりが覆われ、一瞬何が起きたのかわからなくて顔を上げる。
「・・・・・・九郎さん・・・・・・」
「お前が何を恐れてるのかはわからない。言いたくなったら言って欲しい」
「・・・・・・・・・」
「俺は・・・・・・お前を失いたくないんだ」
ぽつり、呟かれた言葉にはっとした。
この感情の矛先が不安定で、恐くて逃げたくて、でも大事な想い。
一度目は炎の中で皆を失って還ってきた。
二度目は自分のいないところであなたを失った。
胸の奥に忍ばせてあるこの書状を書いた時、どんなことを思っていたのかはわからないけれど。
それを読んだ時、涙がとめどなくあふれたのを覚えている。
一人で、行かないで。
右手がその袖をぎゅっと握り締める。
「離れるのは、嫌だ・・・・・・」
「望美・・・・・・」
「いなく、ならないで・・・・・・」
切なる願い。
今度こそ未来を切り開くために、この想いを告げるために。
だから、傍にいてと願う。
「馬鹿。いなくなるわけないだろう?」
優しい笑みがそこにはあって、たくましいその腕が私の身体を引き寄せる。
ぽんぽんと背中を叩いて、ここにいることを告げた。
「うん・・・・・・そうだね」
あたたかくて、安心できて、それが嬉しくて泣きそうになる。
いつか訪れるその先の未来を今度こそあなたと生きるために。
わからない不安を打ち消すのはあなたの言葉だけなのだと知った日のこと。
この手を離さないと胸の奥で誓っていた。
終