この遠くて広い青空の向こうには何があるのだろう―――?
「またここにいた」
呟いたその先にいた人をみつけて羽張彦は呟く。
羽張彦の姿を見たその人は笑って頷くと「気持ち良いわよ」と言葉を口にした。
「ここ好きだな」
「だって、空がこんなにも青く広がっているんだもの」
「だからって供を連れずに一人で来るか?せめて俺か柊を連れて行けばいいものを」
「・・・・・・ごめんなさい」
視線を落として謝る一ノ姫を見つめ、肩を透かすと羽張彦は一ノ姫の見つめていた先にある青空を仰ぐ。
「真っ青だな。白い雲もある」
「ええ、ゆっくりと雲が動いてるのを見ていたの」
羽張彦の言葉に頷くように一ノ姫は言葉を続けた。
「鳥になって、白い雲の向こうに飛べたらきっと青い空しかないのよね」
「そうだな。・・・鳥になりたいのか?」
「そうね。なりたいと言えばなりたいわね。自由に飛べたら、って思うわ」
そこにあるのは一ノ姫の願い。
自由になりたい、でもなれない。自分の生まれ持った定めが願いを妨げる。
「・・・・・・人間、無いものねだりなんだとさ」
「え?」
突然言葉を口にした羽張彦に一ノ姫は訝しげな瞳を向けた。
薄く皺を寄せて羽張彦の言葉を待つ。
「柊が言ってた。人は欲が多いから、ないものをねだる習性が強いんだと。確かに間違ってないなと思ってさ」
「・・・・・・そうかもしれないわ」
一ノ姫もまた頷いた。
ああ、確かにと思うことが一ノ姫もあることに気づいたから。
『龍の神子は決して人に心を奪われてはならない』
そんなの無理だわ、と一ノ姫は一人呟く。
だって、もう後戻りできないほどにこの人を恋焦がれている。
一ノ姫はそっと胸の奥に仕舞った言の葉を口の中で呟いた。
「羽張彦も欲しいものはあるの?」
「そりゃあるさ。たくさん、な」
かかっと笑いながら羽張彦は小さくため息を吐くと一ノ姫の頭に自分の手を載せて撫でた。
黙ってそれを一ノ姫は見つめる。
「たとえば、一ノ姫、あんたとかな」
「は、羽張彦!?」
かぁっと頬に熱が集中し、紅く染まる一ノ姫の手を引っ張ると羽張彦は抱き寄せた。
自分よりも広い肩幅、頼もしい腕に抱かれながら一ノ姫は手持ち無沙汰な手を羽張彦の背に回す。
「・・・・・・馬鹿ね」
「でも人は欲深いからな」
「そうね。私も欲深いわよ」
小さく笑いながら一ノ姫はぎゅっと細い腕で抱きしめる。
羽張彦もまた抱きしめる腕を強くして自分の腕の中にある存在へ言の葉を紡いだ。
「・・・・・・もし鳥になったら一緒に空を飛ぼうな」
「ええ、一緒にね」
白い雲の向こうにある青い空を舞う姿を夢見ながら二人は儚き夢を抱く。
願いは空の向こうへ。
青い空に溶け込んだ言霊に祈り、願った。
終