あ、と思ったのは、朔が縁側で着物のほつれている部分を縫っていた時だった。
針山にある針に通された赤い糸を見つめて、あることを思い出す。
そう言えばそんな話もあったっけ、とふと思っていた。
「望美さん?」
にこにこと笑ってその人は私の名前を呼んだ。
「え?」
思わず現実に引き戻されて、はっと我に返る。
「あ・・・・・・・・・」
「心ここにあらず、でしたね。どうしましたか?」
「いや、ちょっと思い出しちゃって」
そう言って苦笑いをするとおやおやと言う顔で私をなだめた。
「何を思い出したんですか?」
その問いに、一瞬だけ躊躇する。
笑われるんじゃないか、そんなことが頭を過ぎるから。
「赤い糸の伝説っていうのがあるんです。ほら、小指と小指に見えない赤い糸が繋がってる人、
それが恋人にあたるんだって。そんな話があったなぁって」
ちょっと思い出しちゃって。
そう言うといつもの笑顔で私を見た。
「見えない糸ですか・・・・・・」
「ま、まぁ気にしないで下さい。思い出しただけですから」
急に何だか恥ずかしくなってくる。
そう言えばこんな話をしたのは小学校の時以来だった。
ガキだって思われたかな。
「望美さん」
「はい?」
「手、出して下さい」
くすっと笑うと、その笑みを片方の手で握って堪える。
「あなたはかわいらしい方ですね」
そう言って弁慶は望美の小指を絡み取った。
不意打ちな態度に思わず頬に紅を染める。
どうしよう。
「糸ではないですけれど」
一言そう告げると互いの絡めた小指をきつく結ぶ。
「こうするといいと思いませんか?」
くすくすと笑いながら、私の様子を楽しそうに見つめていた。
振り回されてるってわかってるけど。
でも、この気持ちは確かだから。
「弁慶さん・・・・・・ずるいです」
頬を染めたまま、口を尖らせて呟く。
その抗議の声は聞こえたのか否か。
弁慶がその手を離すのはもうしばらく先のこと。
見えない赤い糸がその手を絡ませてるのかどうなのか。
それは神のみぞ知ること―――――。
終