愛のカタチ

愛っていろんな形があると思うけど、
この二人ほど複雑なものはないって思うんだよね。





多分、これはそよ風が吹いていた、夜の闇が薄い日だと思った。
あたしは、偶然にも見てしまったんだ。
隣で一緒に見てしまった九郎さんは言葉をなくしてた。
もちろんあたしも例外じゃなくて。
でも、あぁ、そっかって納得しちゃったの。自然とね。
二人にはそんな雰囲気があったから。でもちょっとだけ意外だったな。

それは意外にもこんな会話から始まったの。


「あ、これ朔のだ。九郎さん、ちょっと朔のとこまで行って来る」

「え? あ、おい。もう夜も遅いのだから明日にしろって・・・望美!」

あたしは九郎さんの言葉を振り切って部屋の外に出た。
外に出るとふわりと頬が風を撫でるのを感じて思わず手が頬に触れる。
手に持つ白い布がひらひらと手の端から舞っていた。

「わぁ・・・きもちいー・・・・・・・とと、朔のとこ、朔のとこ♪」

朔のところへ足を運ぶには理由があった。
先ほどまで朔はあたしと九郎さんが住んでいる部屋で洗濯物を畳んでたんだ。
いつも天気が良かったら外で洗濯物を畳むのが日課だったけど、
今日はちょっと雨が降ったこともあって、急遽あたし達が使う部屋で洗濯物を畳んでたの。
で、今畳んだのを片付けてたら、一枚だけあたしじゃなくて朔の服が入ってたんだ。
だから、届けてあげようと思って。
少し朔のとこまでは距離がある。
そうして朔の後姿が見えて声をかけようと思った瞬間、あたしは我が目を疑ったんだ。
だって、そこにいたのは朔だけじゃなくて。

「だから、あなたは目が離せないんですよ」

そんな言葉があたしの耳に届き、瞳に映ったのは、二人の影が重なる姿。








ぼーっとどれくらいの時間、突っ立っていたのかわからない。
九郎さんに声をかけてくれるまで気づかなかったくらいだから、結構な時間かもしれなかった。

「望美! 遅いから心配した・・・・・・望美?」

「・・・・・・あ、九郎さん・・・・・・」

「どうしたんだ、お前」

「あ・・・・・・えっと、」

「お前大丈夫か? 疲れてるんじゃないか?」

「ううん・・・・・・ちょっと、びっくりしただけ・・・・・・」


そう、びっくりしただけなのだ。
あたしは自分が目にした光景に驚いていただけ。
だって、だってだよ?
朔ってばいつの間に!?
あたし全然気づかなかったよー!


「ねぇ、九郎さん」

「うん?」

「九郎さんは弁慶さんの友達だよね?」

「ともだち・・・・・? 友達というか、仲間だが?」

「んじゃ、弁慶さんの好きな人って知ってる?」

「は? アイツの好きな人か? いるのか?」

九郎さんは逆にあたしに尋ね返して、この人もなのかと一つため息をついた。
そっかー。実はすごく密やかに愛を育んできたってわけなのね。

「・・・・・・九郎さんが知らないならいいや」

「はぁ? ちょ、望美。お前知ってるのか?」

「うーん。知ってるっていうか、知らないって言うか」

「はっきりしないな」

「だって本人に直接聞いたわけじゃないもん」

誰なんだとぶつぶつ文句を言いながら九郎さんはあたしの手を握る。
二人で歩きながらあたしはさっきの光景をもう一度思い出していた。




「だから、あなたは目が離せないんですよ」

そう言葉をつぶやくと弁慶は朔の唇を奪った。
朔は目を見開いて弁慶を凝視すると、更にその力は強くなる。
抵抗しようにもいつの間にか弁慶の腕の中にすっぽりとはまってしまった朔は逃げ道がなかった。
ようやく唇が離れると、朔は大きく息をし、吐く。

「あなた、って人は・・・・・・!」

「だから言ってるでしょう? こんな時間に外を出歩かないと。確かに近くに皆いるからいいかもしれません。
けれど、あなたにもしものことを考えると私のほうが心臓に悪いですよ」

「・・・・・・心配される必要なんて、ないもの・・・・・・」

朔は俯きながら唇を尖らせていたもの、弁慶の手が朔の手を包み込むと、朔の唇はきゅっと閉じられる。
弁慶は少しだけ肩を透かすとぽつりと言葉をこぼした。

「帰りましょう」

「え?」

「身体が冷えてしまいますよ」

「・・・・・・わかってるわ」

朔は弁慶の手に引っ張られるまま歩いていた。
月の光がようやっと朔の顔をはっきりと見せた時、何となく頬が火照っているように見えたのは、
多分気のせいではなかったはず。
やけにその光景が自然に瞳に映って、望美にとっても不思議な感じがした。




「くろーさん♪」

あたしは九郎さんの手を握りながら大好きなその名前を口にした。

「どうした?」

「あたし、九郎さんのこと大好きだよ」

「は?」

「だから、ずっと傍にいてね」

「あ、あぁ・・・・・・」

どうしていきなりそんな言葉になったのかわからないためか、不思議そうな顔をしていた。
あたしは、朔のあの時の顔を思い出したら何となく言いたくなったんだ。
大好きな人に『好き』だって伝えることは、とても大切なことなんだって。
あたしの片割れでもある朔に、どうか幸せになってと願って、あたしは九郎さんの手を握り締めた。

それぞれの愛のカタチがあることを知った日。

あたしはその複雑さにちょっとだけ眉間に皺を寄せていたけど。







まぁ、それには後日談があるわけで。

「九郎、どうしたんです?」

弁慶はいつもより眉間に皺を寄せる九郎に尋ねた。

「・・・・・・弁慶」

「はい?」

「お前、大事な人ができたら言えよ」

「は?」

「いや・・・・・・こっちの話だ」

「はぁ」

不思議そうに九郎の顔を見つめる弁慶がいたとかいなかったとか。
それはまた別の話。







*あとがき*
こんなモンゴルでの話はいかが?なんて(笑)
結構楽しんで書きました。特に弁朔。いやー、九望がいると動くねー(笑)