きみのことが大好きで、大好きって言葉だけじゃたりないんだ。
「あ・・・・・・雪」
香穂子は顔を上げて空を仰ぐ。
灰色の空の上から降り注ぐのは白い小さな結晶だった。
「ホントだ・・・・・・どうりで寒いわけだー」
「ですね。初雪だなぁ」
楽しそうに顔を上げて見つめる香穂子の横顔を火原は見つめる。
無邪気に楽しむ香穂子の表情を見ているとこっちまで笑顔になるな、と火原は一人ごちた。後ろからぎゅっと抱きしめたくなる。
手がむずむずするけれど、それはできないと自分を制して火原は香穂子を見つめる。
「和樹先輩?」
黙っている火原を不思議に思ったのか香穂子は火原の顔を覗きこんだ。
間近に香穂子の顔がひょいと現れて、火原は思わず一歩後退する。
「か、香穂ちゃん!?」
「あ、起きてた」
「起きてた、って・・・・・・」
火原は苦笑いをこぼして香穂子の頭を撫でた。
香穂子はじっと火原の表情を見つめる。
最近、たまにこうやってぼうっとしている時があることは香穂子も気づいていた。
火原だって色々と考えることがあるのだろう。でも、何も言ってもらえないのは悲しかった。
何をそんなに考えているのですか。
そこで、香穂子の思考は途切れた。
リンゴーン、と大きな鐘の音が街に響き渡る。
「あれ、こんな時間に鐘の音?」
昼前なのに、と香穂子は首を傾げると、火原が「あれだよ」と指を指した。
少し高台にある教会。そこから現れたのは白いフラワーシャワーを浴びた花嫁と花婿の姿。
香穂子は思わず目を細めて見つめる。
女性であれば必ず憧れるであろう、ウェディングドレス。
そして傍らにいるのは自分の好きな人。
「いいなぁ・・・・・・」
うっとりと瞳を泳がせて香穂子は呟いた。
「・・・・・・してみたい?」
「へ?」
火原の言葉に香穂子はぎょっと目を開く。一体、何を、と香穂子が言いかけた言葉を火原が封じた。
軽いキス。香穂子は瞬きをするのを忘れて火原を見つめる。
「おれ、一生香穂ちゃんを守ることを誓います」
香穂子に向けて言う火原の瞳は真っ直ぐで、香穂子は逸らせなかった。
子供のように笑う火原、時折すごく大人びている火原の姿。
どれも火原の姿なのに、いつも全部が違ってどれが本物かわからなくなる。
どきん、と胸の鼓動が早くなる。
「いつか、きっと。今はちゃんとしたこと言えないけど。香穂ちゃんを迎えに行くから」
「和樹先輩・・・・・・」
「だから、約束。香穂ちゃんはどう?」
そんなの決まってるのに、香穂子は差し出された小指に自分の小指を絡めた。
雪の降る日、交わされるのは未来への約束。
そして。
「香穂ちゃん、お誕生日おめでとう」
火原は笑って香穂子に小さな小箱を差し出した。
ありがとうございます、そう言って小箱のリボンをしゅる、と外す。
そこに現れたのは誕生日石を小さくあしらった指輪。
「和樹先輩、これ」
顔を上げて香穂子は破顔する。
今にも泣きそうな香穂子の顔に火原眉を下げ、大きな手で華奢な香穂子を抱きしめた。
脈打つ鼓動が直に伝わる。お互いドキドキと鼓動の音を響かせていた。
「まさか、こんなタイミングよく鐘の音が鳴るとは思わなかったけどね」
微笑み、香穂子は強く抱きしめ返した。
不安に思っていた気持ちはどこか、抱きしめることで安心感を覚える。
いつか言って欲しかった言葉。
誕生日のその日にもらえた幸せな宝物。
プレゼントと共に香穂子はこの日のことを忘れることはないと思う。
いつもドキドキをくれる人。
そして、これからも。
一生ついていきたいと言う人にめぐり合えたことを幸せに思う香穂子の姿がそこにあった。
終