ねぇ、きみはどうしておれの手をとったの―――?
「どうしたの? 火原キャプテン?」
不思議そうな顔をして火原を見つめるのはつい最近まで小さな町にいたとある貴族の娘である香穂子。
香穂子は行儀悪くも火原の執務机の上に腰掛けて火原の顔を覗き込んだ。
「え? あれ? ぼーっとしてた?」
「してましたよ。大丈夫ですか、そんな顔してると別の海賊に襲われちゃいますよ?」
くすくすと笑って香穂子は言う。
火原は「うーん」と苦笑いを浮かべていた。
「ぼーっとしてるってわかったら土浦から怒られそう〜〜」
少し困った顔をして言う火原に香穂子は微笑む。
「頼りにしてるんですから」
こつん、と火原の額に香穂子の額を当てる。
「ん。おれ、香穂ちゃんのためなら頑張るよ」
「でも私だけじゃないでしょ? ここにいる皆のために頑張る、違いますか?」
吐息の掛かる距離で香穂子は火原へと問うた。
火原は香穂子の手の上に自分の手を重ねて頷く。
額から伝わる熱と絡めた指から伝わるぬくもりが火原の熱を上げる。
「私があなたの言葉にのったのは、あなたが私の知らない自由をくれると思ったから」
「うん」
「世界を見たかった。―――それに、」
「それに?」
「あなたが言ったんですよ、キャプテン。『おれと一緒に来ない? きみの知らない世界を一緒に見ようよ』って」
「うん、そう」
「たくさん色んなところ行って、私幸せだって思ったけど・・・・・・」
口を噤んだ香穂子に火原は小首を傾げて上目遣いで香穂子を見つめる。
香穂子は笑っていた。
「あなたに出会ったことが一番の幸せだって思うの。こんなにも幸せな気持ちをくれるから。・・・・・・・『好き』と言う言葉の本当の意味を教えてくれたのがあなただから」
香穂子はくすくすと笑って言葉を紡ぐ。
火原はどうしようもないくらい香穂子をぎゅっと抱きしめたくなった。
「香穂ちゃん・・・・・・」
額が離れて、手はもっと深く絡ませるとどことなく笑みがこぼれた。
それが合図。
最初は軽く香穂子の瞼にキスを落とす。
次に目元、頬、耳元、鼻の頭、ゆっくりと下へと落とし、そして火原は香穂子の唇へと触れた。
心地良い、くすぐったいような気持ちが香穂子の胸に広がる。
それだけで幸せな気持ちになれること、火原でなければわからなかった。
「大好きだよ、香穂ちゃん」
言葉と共に呑み込まれるのはありったけの想い。
触れる指先に宿る幸せに二人は酔いしれる。
一年前は小さな町にいた香穂子。
今は大きな海原の上に漂う船の上。
囚われていた姫は、優しき船長の手によって籠から抜け出した。
それは幸せを掴むために。
何よりも、愛しい人の手を取るために―――。
終