素直になれなくて


ねぇ、だからもう一度見つめて――――




「あれ。土浦くんじゃない?」

そう言い寄ってきた女性に一瞬瞳をきょとんとさせてしばし考える梁太郎を私は隣で見つめる。
数秒後に解決したのか、「あ・・・お前か」と笑った。
私はただ黙ってそれを見ていた。




デートをしていたら梁太郎の昔のクラスメイトとばったり会った。
しかもその人は梁太郎の元カノの友達。
なんだか置いてけぼりを食らった私は黙ってその場に立ち尽くしてたけど。
正直面白くなかった。
私の知らない話ばかりする梁太郎がずるいとさえ感じる自分の感情がすごく嫌だった。
話し終えると梁太郎とそのことで口論となったこともすごく嫌だった。
だから、逃げたのに。
公園のベンチで見事にあっさりと捕まってしまった。
情けない私。
こんな顔見られたくないからずっと俯いたまま黙っていた。


「香穂」


優しい声で言わないで。じゃないと、私意地張れないよ。
俯いたままぽたり、ぽたりと落ちる雫が制服のスカートの裾を染めていく。
本当はこんなことで意地張りたいなんて思ってないけど、でも。

「香穂」

もう一度優しい声で私の名を呼んで。
頭の中がぐちゃぐちゃで、そんな姿なんて見られたくないのに。
梁太郎が一つため息つくのが聞こえた。
そんな近くの距離にいるのに、ずっと遠く感じるのは、私が意地を張っているせい。

「悪かったよ・・・・・・ごめん」

その声音で謝られると何も言えない。
謝ると梁太郎の大きな手が私の左手の上に載せられた。
優しく、そっと。

「・・・・・・っ、そんなこと、されると・・・・私、謝れない・・・じゃない・・・・・・」

やっとのことで言葉を口にすると、しゃっくりを上げながら言う。
私だってこんなことしたくない。
いつだって笑って、優しくしていたい。

「やっと、口きいたな」

ほっとしたようなため息をついて、梁太郎は膝を折り曲げて私が見える位置にしゃがんだ。
俯いていた顔が少しだけ上がる。
口を尖らせながら私は、少しだけ赤くなった瞳を梁太郎に向けながら呟く。

「・・・・・・ずるい」

「ずるくないさ」

「バカ」

「バカだよ、俺は」

香穂が大事だから、それぐらい何でもない。
ごく真面目な顔して面と向かって言われるとどう反応していいものか迷ってしまう。
その逡巡した瞳を梁太郎が見逃すはずなくて、重ねていた手をぎゅっと握り締めた。

「俺には香穂だけだから」

「・・・・・・らしくないよ」

「らしくなくても、何でもだ」

簡単に許せるなら苦労しない、素直になりたくても、その勇気がまだ持てなかった。
私の瞳を覗きながら空いてる方の手で私の頭を撫でる。

「許してくれる・・・か?」

言葉に出来ないなら、態度で。
ひっくとしゃっくりを上げながら小さく頭を縦に振る。
すると梁太郎は私の片方の手を引っ張り、その胸に引き寄せた。
ようやく掴んだ優しさ、温かさ。
手放せれば楽なのにできない、いじっ張りさ、欠ける素直さ。
そんな私を抱きしめながら梁太郎は小さな声で囁いた。

「ありがとな」

その言葉に思わずまた瞳に光るものが溢れる。
言葉だけじゃ伝わらないこと、触れることで理解する気持ち。
溢れる想いに、泣きたくなる気持ち。
醜い自分を見せてしまうかっこ悪さ。
全部ひっくるめて好きだと言う気持ちに偽りはないから。
どんなことがあってもいつでも好きだから。
時には優しくないことがあっても、それでも一緒にいたいと言う気持ちは変わらない。


「・・・・・・ごめんね」


小さな声で言うのは、まだ素直になれない部分があるため、だからこれで妥協してね。


「いいよ、俺が悪かったんだし。つい香穂を放り出して話し込んでたんだから」

「淋しかったんだから」

「あぁ、ごめん」

抱きしめていた腕を緩めて、私は視線を梁太郎の瞳に向けた。
いつもの優しい瞳。
その瞳の色がすごく好きだから。
まだ目には光るものがあるけど。
それを見て梁太郎は一筋の涙のあとを人差し指でそっと拭った。


「もう、泣かせない」

「・・・・・・私だって泣きたくないからね」


じっと睨みつけるように言うとくすっと梁太郎は笑みをこぼした。
そうしてから一つコホンと咳をすると顔を私の耳に近づけ、呟く。



「                 」



小さな声でそっと。
抱きしめるように囁く。
視線を絡めるとやっとのことで私が笑って、それを見てまた梁太郎が笑った。









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