■音は言葉に似ている(天羽+冬海)
「へぇ、なるほどね。冬海ちゃん、憧れてる人がいるんだ」
ペンを走らせながら天羽菜美は目の前に座る冬海笙子を見つめた。
冬海はというと、困ったように笑いながら、でもちゃんとしっかりとした口調で話し始める。
それが、天羽にはひどく共感が持てるなと思いながら話に耳を傾けていた。
「あ、はい・・・・・・あの、すごく素敵な音で・・・・・・」
「そっかー。それっていいことだよね」
「そう、ですよね・・・・・」
「そうだよー。で、それは男? 女?」
「え? あ、あの、えっと、じょ、女性の・・・方です」
「へぇー。それって日野さん?」
天羽の言葉に冬海は恥ずかしそうに笑っていた。
「あ、はい。あの・・・これって、記事にしませんか?」
「うーん。迷うなぁ。でもどうして日野さんなの?」
天羽の言葉に最初は躊躇したものの、結局しゃべると決めたのか恥ずかしさを抑えて冬海は口を開いた。
「音・・・です。音は言葉に似ている、と誰かが言っていたんです」
「へぇ。それがどうして?」
「音を聴いていて、そして日野先輩と話をして素敵だなって思ったんです。
何よりも音が優しかったし、そのとおり日野先輩は優しくて、とても頼りになるって思いました」
「だから、憧れてるんだね」
「はい」
俄かに頬を染めながら冬海は言葉を続ける。天羽はペンを走らせながらちらりと冬海を見ていた。
その時見た表情がやけに大人っぽく見えたのを天羽は覚えている。
ぼんやりと頭の中で考えながら天羽は日野香穂子の姿を思い浮かべていた。
「音は言葉に似てる、か」
天羽は小さな声で冬海の言葉を反芻しながら笑みをこぼす。
茜色の空が校舎の窓から少しずつ姿を現すのを横目で見ながら、自分にしか聞こえない声をもらしていた。
「いい言葉じゃない?」
天羽の言葉を冬海の耳が捉えることはなかったけれど、代わりにふわりと撫でた風が応えてくれたような気がしていた。
終