親愛なるあなたへ(共通編)


大好きなあなたへ。
愛しいきみへ。


大切な言葉を、届けたい。






手紙だと素直に言えた言葉、でも目の前にいると素直な言葉を紡ぐのは難しいもの。

「あ、か、香穂ちゃん!」

「ひ、火原先輩!」

放課後になり、お互い約束していた時間に練習室の前で出会う。
朝、練習室をとっておくからと言っていた火原の約束どおりに日野はヴァイオリンを持って現れた。だが、手紙の一件で二人とも照れているのか、緊張感が漂う。

「と、とりあえず練習室に入ろうか」

「あ、はい・・・・・・」

日野は頷くと火原の後ろから練習室へと足を踏み入れた。
日野の様子からして火原の手紙を読んだのだろうことはすぐにわかった火原は、
何となく恥ずかしさを覚えて無言でケースからトランペットを取り出した。
日野もまた無言でケースからヴァイオリンを取り出す。

どうしよう、何か話さなきゃって思うけど、上手くいかないよー。

頭の中で半ばパニックになりながら日野は一人熱心に松脂を弦に重ねた。
火原もまたぱかぱかとトランペットのピストンヴァルヴを交互に動かしていた。

どうしよう、何話せばいいんだろ・・・・・・。

無言のままだと落ち着かず、火原は意を決して振り返る。
そして振り返ると真剣な眼差しを向ける日野の姿を見つけて思わず息を呑んだ。
だが、躊躇している場合ではないと火原はごくりと喉を鳴らして口を開いた。

「香穂ちゃん、おれ・・・・・・!」

「火原先輩、私・・・・・・!」

同時に発した言葉に二人とも再び黙り込んだ。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

これでは話は続かない。火原は日野の双眸を見つめ、小さく息を吸い込む。

「香穂ちゃん、あのさ、おれ・・・・おれ、」

「火原先輩、誕生日おめでとうございます!」

ぎゅっと自分自身の手を握り締めて日野は火原へと言葉を綴った。

「え?」

「あ、だ、だって・・・今日は火原先輩の誕生日でしょう?」

「あ、そっか・・・・・・」

「忘れちゃったんですか?」

間抜けな顔をしているだろうことは自分でも分かっていても、火原はそれを治す術を今持ち得ない。日野は緊張感がとけたのかくすくすと笑いながら火原を見つめた。

「えっとプレゼント、なんです、これ」

はい、と差し出したのは小さな箱。
日野から受け取った小さな箱は火原の手に軽く収まった。

「開けていい?」

「はい」

そっとリボンを解いて、火原はラッピングされていた包装紙をテープの順番に解くと、そこに現れたのは少しばかり長めの箱だった。
開けるとそこに見えたのはネクタイ用のピン。

「香穂ちゃん、これ・・・・・・」

「何かないかなーって思って探したらそれ見つけて。来年には大学生だし、スーツだって着るだろうし、そう思ったらいつでもつけられるそれがいいかなって思ったんです。ちゃんとそのピンに音符が刻まれてるんですよ」

「あ、ホントだ」

金色のピンのつまむ部分に小さな音符が刻まれている。
火原はまじまじとネクタイピンを見つめた。

「私が傍にいられない時でも、これは傍にいれるでしょう?我ながら名案って・・・・・・ちょ、火原先輩?」

日野が言いかけた言葉を遮って火原は日野の腕を引っ張ると自分の胸に抱き寄せた。
急に抱きしめられた日野は最初は戸惑ったものの手持ち無沙汰な腕をそっと背中に回して抱きしめる。

「ありがとう、香穂ちゃん」

耳元で火原は感謝の言葉を囁いた。
ゆるりと日野の表情が緩み、首を小さく横に振って答える。

「喜んで貰えました?」

「うん、すっごく嬉しい。香穂ちゃんってホントおれが喜ぶことわかってるよね」

「それを言ったら火原先輩もそうなんだから」

くすくすと火原の腕の中で笑う華奢な日野の身体を抱きしめて呟く。

「香穂ちゃんほどじゃないよ。手紙もすっごくびっくりしたし、おれ、ホント嬉しいことばっかりだよ」

「喜んでもらえたなら嬉しいです。私だって今日の手紙には驚きました。
すっごく嬉しかったんですよ。ドキドキして、授業どころじゃなかったんです。後からノート見返して何の話してたのかさっぱりで」

あはは、と火原は声をもらして笑った。
「これ結構切実なんですけど」と日野は苦笑いを浮かべる。

「・・・・・・香穂ちゃん、大好き。世界で一番好きで、おれ、この気持ちが好き以上の言葉だってことしかわからないよ」

「私もです。私、火原先輩のこと、」

「おれ、かほちゃんのこと、」



「愛してる」

「愛してます」



二人が告げた言葉は重なり合い、空気に溶けてゆく。
同時に告げた同じ想いに二人は再び笑みを浮かべた。
鼓動の音が二つ重なる。それが余計に二人の胸を打った。

「なんか、おかしいね」

「ホント、おかしい」

笑う声が二人のあたたかな空気を創り出す。
満たされる想いに二人の頬は緩みっぱなしで、でも直すことは困難で。

幸せをあなたに。
想いをあなたへ。

小さな幸せかもしれない。
でも、そんな小さな幸せで二人の世界は広がってゆくから。

そんな幸せが溢れる今、この時が愛しい。







あとがき*
Happy Birthday、火原。私もあなたに出会えて嬉しいです(笑)。
そんなわけで、三日間お付き合いいただきありがとうございました。うん、この形式はなかなか面白い。実は似たような形式を今回ネオアン本で実行しまして、そこからヒントを得て今回のこの小話になりました。去年も一昨年も火原の誕生日小説は書いたんですけど、全てオフだったので。今回こそはオンラインで、と思ってやってみたのです。楽しんでいただけたでしょうか?
楽しんでいただけたなら私としても本望です。や、キスとかなしでどこまでいけるかなーなんて思ってやってみたんですけど。
二人の気持ちの通うところとかやっぱり言葉を開拓するのは難しいですね。まだまだです、私も。甘くしたかったんで頑張ってみたんですけど、やっぱり無理だったか、私(苦笑)
これからも日々、甘い話を書けるように頑張りたいと思います。