見るつもりなんて、全くなかったんだ。
生徒達を門限時間に合わせて追い出している時のことだった。
たまたまそこを通りかかったから、知ってしまった、それだけのこと。
その廊下は人通りが割と少なく、特に下校寸前の時間だとなおのこと、いる人間の数もほとんどいないに等しい。
いつもなら通り過ぎるはずのその小さな廊下のエントランスにでかかった、そんな時だった。
なにやら声が聞こえ、思わず「もう帰れよ」といつもの調子で言おうと思った。
が、聞こえてきた会話に唖然とし、思わず身を隠した。
「俺は、お前のこと・・・・・・好きなんだよ」
「え・・・・・・?」
「だから、そんな顔、するな・・・・・・」
「せんぱい・・・・・・」
あれ?何か聞き覚えのある声だな、そんなことを思って思わずちらっと顔を覗かせる。
背格好は俺よりも少し低いくらい・・・・・・か。
女の方は逆光で見えないな。
「せ、先輩、あのっ・・・・・・」
踵を返そうとしたのに気付いて、女の方が声を必死に震わせて言うのが見えた。
「あの、私・・・・・・私・・・・・・」
こりゃ、そうとうパニくってるなぁとその声から推察するも、その声の響きに思わず眉を寄せる。
あれ?
この声。
「悪かったよ、冬海。困らせるつもりじゃなかったんだ」
「そうじゃなくて、あの。・・・私、何をしゃべればいいか、わかんなくて、こういうこと、初めてで。でも、私・・・・・・私、土浦先輩のこと、好き・・・なんです」
だから、と言いかけたところで土浦らしき人が彼女を抱きしめるのが後ろから見て取れた。
へぇ、土浦と、冬海ね。
にやっと思わず笑って、壁に背中を預ける。
青春してるじゃねぇか。
そんなことを思い、思わず笑みがこぼれる。
まぁ、もう少し猶予を与えてやるか。
もう六時を示そうとしている長針を見ながら、元来た道へと引き返す。
あの二人なら大丈夫だろう、そう思って歩き始めた。
自分にもあった、恋焦がれていた時。
そして、先日真っ赤な顔をして言ってきた一人の女生徒の顔がちらりと思い浮かんだ。
そろそろ俺も動くか。
ようやく自分にも訪れようとしている春を思い浮かべて、苦笑いが浮かぶ。
すこしばかりあの二人に触発されたかな、そう思いながら歩いていた。
終