Rainy day(土冬ver.) 


「雨、止まないな」


不意に頭上から降り落ちる言葉にこくんと頷いた。
先ほどまで弾いていたピアノの音もクラリネットの音もなく、今は雨の音が俄かにするだけ。
テストが近いため、練習室を借りて練習しようと思ったら、先輩に呼び止められた。
もともと一緒に帰る約束はしていたし、時間も互いの練習が終わったら校門のファータ像の前でとも言っていた。
と、そこに雨が降り始めたために、先輩のサッカー部の練習はなくなったらしい。
急遽練習に付き合ってくれるという話になって今に至る。

「どうする?もう少し練習して行くか?」

「えっと・・・・・・練習よりも、あの・・・・・・」

「何だ?」

「先輩の音が聴きたいです」

「音?」

「ショパンの『雨だれ』・・・・・・弾けますか?」

ドキドキしながら尋ねる言葉は、少し上ずっていたかもしれない。
一瞬きょとんとした後、すぐにくすっと笑って「ああ」と短く答えた。

「でも、何で『雨だれ』なんだ?」

「雨・・・降っているから、先輩が弾く雨の音がどんなものなのか、知りたいなと思って・・・・・・」

「そうか」

と言うと私の頭をぽんぽんと撫でた。
前なら男の人に触れられるだけで逃げ出したくなったのに、先輩だけが例外で。
緊張はするけれど、不思議と心地がいい。

「はい」

と頷くと先輩はピアノの前に座り、静かに音を紡ぎ出す。
初めて先輩の音を聴いた時のことは今でも鮮明に覚えていた。
感動して震えが止まらないくらい、澄んだ音で私の心を魅了した。
今もたまに弾いてくれる、その音もまた私にとって心地の良いものだった。
雨の音が響くように、ピアノの音が自然と絡み合う。
少し暗めの旋律に力強い音。
でもショパン独特の繊細な音は健在で、奏でる音に瞳を閉じ、聴き入った。

雨の音と、ピアノの音と。




静かに過ぎゆく時間は何よりの宝物。