指に嵌めたキラキラ光るそれに思わず小さく息を吐いて香穂子は笑った。何度見てもこれに慣れることはない。
多分当分先なのだろう、これに慣れるのは。
「どうしたの?」
不思議そうな顔をしてソファの後ろからひょこっと顔を覗かせたのは、数ヶ月前共に歩むと誓った大切なかけがえのない人、生涯の伴侶である火原和樹だった。
太陽の光に照らしてキラキラさせているのが不思議でならないのだろう彼は「香穂ちゃん?」と首を傾げる。
「キラキラしててね、綺麗だなぁって思って」
言いたいのはそんな一言ではないのに、出てきたのは短い言葉。もっと幸せでこの満ち足りた気持ちを伝えたいと思うのに上手く言葉にできない。
そんな自分に歯がゆさを覚えながらも、まぁいいかと思ってしまう。
「じゃあ、これも?」
そう言って自分の左手を窓から差し込む光に照らしてそれを見つめた。翳す手を揃えて、大きさは違うけれど同じ箇所に嵌められているものを見遣る。
「うん。そう」
頷くとくすくすと笑って火原は言った。じわじわと胸の奥が熱くて、でもこの気持ちを伝えるには簡単な言葉では済ませたくなくて。
「指輪って不思議だね」
香穂子は首を傾げて何で、と表情で訴えると火原は少し思案顔で宙へと視線を移した。それと同時に手は下ろされる。香穂子も倣うように手を下ろした。
「和樹くん?」
「だってさ、こんな小さいわっかが約束のしるしなんだもん」
あぁ、と香穂子は納得する。確かに不思議だといえば不思議だった。この小さなものが約束で、本当は紙切れが約束なのだけど、でもこれも約束の一つ。
火原の言わんとすることがわかると香穂子は言葉を口にする。
「だからキラキラしてるんだよ」
香穂子はくすくすと笑いながら火原を見つめた。
「?」
わからないと表情に浮かべる火原に香穂子はだってね、と言葉を続ける。
「いつまでもその約束はキラキラと光ってるから。一生あなたに寄り添って未来を切り開いて行きます、そう思うから」
ふわり、と火原の表情が緩むと同時に香穂子の首に腕を回して、耳元で囁いた。離さないと言われているような、そんな腕が力強く香穂子を包み込む。
「香穂ちゃんって、すごいよね」
「その言葉、そっくり返すから」
「そうなの?」
「うん。私の考えてないこと、和樹くんは言うもの」
―――おれは、きっと香穂ちゃんみたいな大切な人たちに出会うためにこのトランペット始めたのかもね。
眠る前にぽつりと呟いた和樹の言葉に香穂子は少し泣きたくなる衝動に駆られた、そのことを思い出して香穂子は再び泣きそうになる。
「でも、おれはやっぱり香穂ちゃんがすごいって思うよ」
それはきっと変わらない。香穂子も火原もお互いを尊敬しているからこそ言える言葉。二人が寄り添って生きていく証がお互いの左手の薬指に光る。
くすり、小さく笑うとそれが合図。
二人の顔が寄り添い、影が重なった。それは嵌められている指輪のように優しく寄り添う。
指輪は今日もキラキラと輝いていた。
終