女達の宴はこれから、まさにそんな一時の時間――――。
「さぁて、話してもらいましょうか、笙子ちゃん」
にっこりと笑って菜美は言う。その隣で苦笑いしながら香穂子は見ていた。
「あの・・・・・・その・・・・・・」
笙子は顔を真っ赤にして、俯きながら腕に抱えているクッションを握り締めていた。
「ほらほら、菜美がそう言うから笙子ちゃん困ってるじゃない」
「そう言うけどね、香穂だって聞きたいんでしょ?笙子ちゃんの好きな人」
「そりゃあ・・・・・・」
そうだけどさ、と口を尖らせながら、髪の毛をとかす。
香穂子のさらさらとした髪の毛が流れた。
「あの・・・・・・先輩・・・・・・」
おずおずと口に出したのは笙子だった。
「ん?」
笙子の視線の先には香穂子がいて、香穂子は小首を傾げて笙子を見つめる。
「先輩は・・・・・・火原先輩に想いを伝えた時、どんな感じでしたか?」
「どんな感じ・・・・・・ねぇ・・・・・・」
香穂子の瞳は一瞬宙に舞うもまた元に戻った。少し覚悟を決めたような視線が笙子と菜美に注がれる。
「そうね・・・・ドキドキして、なんだかふわふわした感じがしたかな。でも、何よりもね・・・・この人が好きだなぁって思ったから、伝えたんだよ」
にこっと笑うと、笙子は少し顔を赤らめたまま「そうですね・・・」と小さく呟いていた。
菜美はそれを見つめ、小さく頷く。
好きだって言ってくれたから、私はそれに答えたの。
そう言う香穂子の姿に二人は思わず笑って返した。
「笙子ちゃんは、その人に気持ちを伝えた時どう思った?」
香穂子の優しい視線に、おずと躊躇いがちだった唇が動く。
「ドキドキ・・・しました。好きだと、そう言われて、すごく落ち着かなかった・・・けれど、嬉しく感じました」
はにかむように笑う笙子に菜美はくすっと笑った。
「それって、彼が先に言ってくれたってこと?」
菜美の質問にこくりと笙子が頷く。へぇ、彼が先なんだと香穂子が小さく呟いた。
「まぁ、確かに笙子ちゃんから・・・って感じはしないよね」
「そうだよね。どっちかっていうと彼からって感じだし」
「そう、ですか?」
「うん。あ、ねぇ笙子ちゃんってどういう人が好みなの?」
菜美はわくわくしたその好奇心の瞳で笙子を見つめる。
香穂子もそれは同じらしく、笙子を見つめた。
「・・・男の人が苦手だったんです、私・・・・優しくて、思いやりのある人・・・というのが理想でした」
「なるほどね。今の彼は?」
「優しい・・・です。とても」
「じゃあ、理想どおりだったの?」
香穂子の質問に、少しだけ首を傾げる。
最初は違ったんです、小さな声で笙子は言った。
「違ったの?」
「はい。背が高いから、怖かったんですけど、でも・・・・・・」
「意外な一面を見てしまったわけね」
にやりと笑って菜美が言うと、そうですね、と笙子は答えた。
「その音色が、ひどく優しくて・・・・・・見た目と違うんだな、そう思いました」
「って、それって音楽科の人?」
菜美の反応の速さに香穂子は驚きながら、一方では好奇心の瞳で笙子を見ていた。
「い、いえ・・・・・・」
言葉の反応は鈍く、じゃあ普通科の生徒?と香穂子の呟きに思わず顔を赤らめる。
「・・・・・・あ」
「なによ、香穂」
「私わかったような気がする、笙子ちゃんの好きな人」
「はぁ?誰よ?」
「背が高くて、普通科で、音楽できる人って言ったら一人じゃない」
香穂子の答えに、菜美も「あ。」と呟いた。
その後に菜美の大きな声が部屋を縦断する。
「ああああああ――――――っ!!!それって、土浦梁太郎!!!!」
口をパクパクさせて、笙子を指差した。
人に向けちゃいけませんと姉にも言われていたが、そんなの今の菜美にはお構いなしだった。笙子はめいいっぱい顔を赤くしていた。
「マジで?うそ、全然そういう風に見えなかった」
「私もよ。だって土浦くん、全くそう言う素振り見せなかったじゃない」
「あ、それは、先輩が二人には絶対に気づかせるな・・・と」
「何で?」
「二人に知られると、根も葉もないこと聞かれる・・・って、言っていました」
「あんにゃろ、ムカつくわ。こうなったら徹底的に聞いてやる」
「菜美、無理だと思うよ。菜美がここ最近土浦くんに勝って、インタビュー取れたことあった?」
香穂子の突っ込みに思わず菜美は「うっ」と呟く。
サッカー部の調子が良く、この間の試合の時もインタビューを取ろうとして逃げられた記憶はまだ新しい。
「そっかー、土浦くんね。うん、いいんじゃない?」
香穂子の言葉に笙子はほっと息をついた。
「私、土浦先輩のピアノの音が、すごく好き・・・なんです」
「うん」
「優しくて、繊細で。音ってその人の内面を、しっかり映してくれると、聞いていて・・・・・・」
「そうだね。音色って不思議だもんね」
香穂子が同意すると「はい」と小さな声で笙子は答える。
「こんな、綺麗な音が弾ける人がいるんだ、そう、初めは思っただけでした」
「けれどそれだけじゃなかった?」
菜美が問うとこくりとゆっくり頷く。
「はい。すごく気を使ってくれたり、優しい人なんだと思いました・・・・・・」
「気づいたら好きになってたのね」
香穂子の優しい笑みに笙子ははいと顔を赤らめて小さく答えた。
「そっかー。土浦くんか。でもわかるかもしれない。笙子ちゃんが土浦くんに惹かれた理由。土浦くん、優しいもん」
「そう?優しいようには見えないわよ。面倒見はいいけど」
「それは菜美が質問ばかりするからでしょ」
香穂子のすかさず突っ込むとあははと苦笑いをする。
「笙子ちゃん」
香穂子が呼ぶと「はい」とクッションを持ち直す。
「土浦くんなら守ってくれるよ。いい人だし・・・いい人に巡り会えたね」
一瞬笙子はきょとんとするも、少し照れた顔をして「はい」と確かに答えた。
パジャマを着て、髪の毛をおろして。
普段とは全然違う雰囲気でたがいのおしゃべりをする時間。
本音からしゃべられる相手がいる、それだけで女達の会話は弾む。
明日は休日。
ころころと表情を変えながら夜更かしするそんな時間に満足しながら三人で話をしていた。
終