同じ瞳、同じ視線(日野ver.)


例のごとく、と言えば確かにその通りなのだけど。
その瞳で訴えられたら文句の言葉も出てこない。




「えっと、これは?」

香穂子は思わず目の前にいる沢山の子供達を見て首を傾げた。

「ごめんねー、香穂ちゃん。王崎先輩のお願い断れなくって」

あははと苦笑いを浮かべて火原は車の後部座席に置いてあった段ボール箱を取り出した。

「いえ、それは良いんですけど・・・・・・」

「王崎先輩のボランティア先なんだけど、施設の子供達に一ヶ月に一度音楽会やってるんだ」

「へぇ」

「香穂ちゃんとのデートもしたいし、だったら香穂ちゃんも誘っちゃえって思って」

「なるほど」

香穂子は感心して頷く。火原は「よっと」と少し重そうな段ボール箱を持った手でトランペットのケースを持とうとしていた。

「あ、私が持ちます」

「ごめんねー」

そう言って火原のトランペットのケースを片方の手で持ち、もう片方の手で自分のヴァイオリンケースを持った。
火原が前を歩いて、香穂子が火原の背中を追って歩く。
少しまた背が高くなったかな、そんなことを思いながら香穂子はのんびりと歩いていた。
まぁ、こんな日も悪くない、そう思って。



王崎先輩のボランティアにくっついて来て、香穂子は予想外に色々な楽譜を弾きこなすことになった。火原とよく弾いていた『エンター・テナー』や、三重奏の『アヴェ・マリア』、子供達にはなじみのある曲を沢山。
それこそアニメの曲だったり、ドラマの曲も上手く編曲されていて、香穂子はひたすら楽譜をさらうばかり。
そして前半の部が終了してようやく香穂子はイスに座ることが出来た。

「お疲れ様、日野さん」

頭の上から王崎先輩の声が降ってきて香穂子は思わず顔を上げる。

「いえ。こちらこそ途中ミスっちゃって」

「いや、初見であそこまで弾けたら十分だよ。ごめんね、火原くんとのデートだったのに」

そう改めて言われると香穂子も顔を赤らめてしまう。
火原と付き合い始めたばかりの香穂子にとって大事な時間でもあったはずだ。
でも。

「いいえ。それこそ王崎先輩のお願いを断るんだったら火原先輩じゃないですもん」

「あはは。そっか」

「はい。それに私にもいい経験になりました」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

香穂子は笑顔で答えると、喧騒の中に混じってトランペットの音色が聴こえてきた。
この音は火原しかいない。あの明るくて突き抜けたような音。

「火原くんだね」

「そうですね」

香穂子は子供達に囲まれて演奏している火原へと視線を移す。
顔を綻ばせて火原の音を聞き入るとなぜか隣に立っている王崎が笑っていた。

「? 王崎先輩?」

くすくす笑う王崎に香穂子は小首を傾げた。一体どうしたと言うのだろう。
香穂子の疑問を感じた王崎はいや、さと言葉を続けた。

「同じなんだなぁって思っただけなんだ」

「同じ?」

「うん。日野さん、さっきの火原くんと同じ顔してるなって」

「え?」

「さっき、火原くんね、日野さんが演奏してる姿見て嬉しそうにしてたんだよね」

「え? あ・・・・・・」

他人の目から見た自分達を指摘されて思わず顔を赤らめた。
そんなにあからさまだったかなと思いながら、でも緩む頬を抑えられない。
思わず顔を隠して火照る頬を抑えるも、やはり熱が上昇することに変わりはなくて。

「幸せなんだなって思ったよ」

にこにこと笑う王崎の顔を香穂子は見つめ、そしてまた火原へと視線を戻した。
子供達に囲まれてトランペットを吹く姿はすごく火原らしくて。
やっぱり大好きなんだなって香穂子は思う。

「さ、そろそろ午後の部だから頑張ろうね」

「はいっ!」

王崎の言葉に香穂子は満面の笑みと明るい声で返した。
二人きりじゃなくても、火原と一緒にいればそれだけで幸せ。
色んな火原の姿が見れるから。

ねぇ、火原先輩。

私、どうしようもないくらい火原先輩のことが。


大好きです。






*あとがきもとい呟き*
甘い。何なんだ、この甘さ(笑)
でも、恋してる女の子ってすごくわかるなーって感じです。
顔が綻んでるんですよね。幸せたっぷりって感じ。
あ、でも朝の通勤ラッシュとかでそれをやられると周りはすっげー迷惑です(笑)
んで、火原バージョンに続きます。子供達と戯れる火原の話。