季節が巡るのは早いものだと思う。
出会ったと思ったら、もう一年が経とうとしていた。
この一年はとても充実して、特に出会いの面で恵まれていたと思う。
好きな人ができたこと。
一つ下の彼女はとてもかわいくて、何よりも笑顔が似合う子。
おれの吹くトランペットが好きだと言ってくれた。
だから、おれは―――――。
「んー、春の香りがする」
にこにこと笑いながら、隣を歩いていた香穂ちゃんが呟いた。
「ホント?」
「うん。おひさまのにおいがするもん。あったかくてやさしい匂い」
「そっか。そうだね」
「でしょう?」
ぽかぽかとした小春日和の中、最後になるであろうその制服を着ながら散歩をしていた。
オケ部の皆から貰った花束と、卒業証書と、何よりも手放すことなんて出来ない自分の相棒と。
「こう、気持ちがいいと吹きたくなるなぁ」
「それわかる。私も弾きたくなっちゃう」
「じゃあ弾く?」
おれの提案ににこっと笑って、うんと答えた香穂ちゃんの笑顔が嬉しかった。
「何弾く?」
そう尋ねると香穂ちゃんはヴァイオリンを出しながらうーんと唸っていた。
肩当てを合わせて、ギィと音を鳴らした。
「うーん・・・・・・やっぱりここは、ガヴォットかな?」
「ガヴォット?」
「うん。和樹先輩と初めて合奏した曲だから」
弾きたいの、と呟いて香穂ちゃんは弦を構えた。
ぴんと張った弦の奏でる音色に合わせて、自分の相棒であるトランペットを鳴らす。
重なり合う音が楽しむように弾んだ。
その音を聴いておれも、香穂ちゃんも笑って演奏する。
春のあたたかな日差しがとても気持ち良かった。
香穂ちゃんと初めて合奏した曲。とても楽しくて心がわくわくして。
そんな香穂ちゃんが大好きだって改めて思った。
今もまだドキドキしてる。
香穂ちゃんと一緒だったら、いつだってドキドキして。
それが止まらなくて。
でも、このドキドキは心地良いものだから。
この音色に気持ちを託そう。
突然音が止まった。残るのは自分の相棒であるトランペットの音色だけ。
「香穂ちゃん?」
「‥‥やっぱり、ダメ」
泣きそうな顔をして香穂ちゃんは言う。
「何が?」
「笑って、見送ろうって、そう思ったのに」
「香穂ちゃん‥‥‥」
「先輩と離れ離れになるの、すごく辛い」
「おれだって、辛いよ。でも本当の意味で離れ離れじゃないよ? いつだって会おうと思えば会えるから」
「けど、もうこの校舎にいないんだって思ったら」
「うん。それを言ったらおれだって大学に行っても香穂ちゃんはいないんだよ?」
「そうだけど‥‥‥」
「朝だって一緒に行こうと思えば、おれ迎えに行くし。いつだって会いに来るから」
「‥‥‥‥和樹先輩、浮気しない?」
「は?」
「しない?」
おれはきょとんとした顔で香穂ちゃんを見つめた。
きっと睨んでおれの瞳の奥を覗く。
「しない。おれには香穂ちゃんだけだから」
「‥‥ん、わかった」
ぽろりと零れ落ちたその雫を拭う。
離れ離れになるのは辛いけど、でも会おうと思えばいつでも会えるから。
好きだって気持ちはかわらないから。
「好きだよ――――」
言葉を耳元で囁いて。
これは終わりじゃなくて、またひとつのスタートラインだから。
もうすぐで桜が咲き乱れるこの道で手をつないで歩こう。
いつまでも一緒にいたいね。
そう願う気持ちはいつだって変わらないから。
終