恋という名の
魔法


からっ風が吹いて思わず身を縮めると、枯葉がふわりと空を舞うのをどこかぼんやりとした顔で見つめていた。まだ夜が明けて数時間としかたっていないためか、朝陽が少しまぶしい。でも示す時刻はそこまで早くもなくて、むしろ学校に行く時間となんら変わらなかった。
待ち合わせ時間よりも30分以上早い。時計の針はまだ4を示したまま。
でも、絶対にこれだけは譲れないから。
いつにもまして早く起きて、うるさいと文句を言う母の言葉を無視して頑張ったものが手の内にある。
少し駆け足で待ち合わせ場所へと向かいながら、自分の頬が緩むのを感じていた。


喜んでくれるかな。


どんな顔するかな。

驚くだろうな。

どんな言葉よりも、どんなことよりも。
今思うのは。



早く、あなたに会いたい。



色んな想いが混ざり合って、でもそれが嫌じゃなくて、どちらかと言えばくすぐったい感じがする。
喜んでほしくて、笑顔が見たくて、何よりもあなただから。
だからこんなにも苦手な朝の早起きだってするし、寒い日は外に出たくないのに出てしまう。
不思議な魔法にかかったかのように感じるのは、きっと『恋』という名の魔法にかかったから。
ようやく目的地が見えてきて、少し息の上がった肩を落ち着かせた。
開園前の遊園地の入り口に一人ぽつんと立って、手の内のものを抱えて。
ほら、誰よりも早く着いた。
それが嬉しくてまた笑みをこぼすと片方の腕にかけているカバンからポーチを取り出す。その中にある手鏡を取り出すと、少しだけ乱れた前髪を直して、服もチェックしておかしいところがないかどうか確認する。
いつものデートよりも気合を入れてきた服装に気づいてくれるだろうか。
余計なことばかりが脳裏をよぎって離れなくて、そうしている間に待ち合わせの20分前を切った。はぁと手に息を吹きかけながら鼓動に耳を傾けて、自分がどれくらい緊張しているかを確かめる。ふわふわとしたような変な感じがなかなか抜けなくて苦笑いしていると、前の方から見覚えのある影が見えてじっと目を凝らしていた。

「和樹先輩?」

小さな言葉は言霊となって現れる。
その影はどんどん近づいてきて、ようやくはっきりと確認できる位置までくると笑顔が見えた。


「香穂ちゃん!」


笑顔と同時に聞こえた声。
私が大好きなあなたの声で、私の名前を呼んで。


「和樹先輩!」


肩で息をする和樹先輩が自分の手が届く位置まで走ってきて、思わずその手を差し伸べて少し冷たい頬に触れた。

「冷たい、和樹先輩」

くすくすと笑うと和樹先輩は私の頬に触れる。

「そっちのほうが冷たい。いつからいたの?」

「ナイショ」

「ちぇー。まぁいいけど。おれ、すっごく楽しみにしてたんだよね」

「私もだよ、和樹先輩」

高鳴る鼓動がそれを伝える。
きっと和樹先輩にも聞こえるんじゃないかって思うくらいに音が大きい。
ドキドキしながら待って、でもその時間はすごく楽しくて。

あなただからどんなに待っていても楽しい。
恋と言う名の魔法は、なかなか解けそうにもなくて。
きっと世界中の恋する女の子はこういう風なのかもしれない。


楽しい時間は今、ここから始まる―――――。







*読んで頂きありがとうございました!