キラキラ輝いているということはこう言うことかもしれない。
不思議とその音色はとても澄んでいて、思わず足を立ち止めるくらいだった。
少し切ないような音色。ピアノの静かな音色がかすかに聞こえる。
多分、彼が弾いているんだろうなと思った。
音楽科校舎にある練習室の前の廊下近く。もうそろそろだからと迎えに来た時だった。
ドア越しに見えるその弾く姿、音、何をとってもキラキラと輝いているように見えたのは、気のせいじゃない。
私にとって、この音色は特別だから。
何十分もそこにいたことに気づいたのは音色が止んだから。
「香穂」
そう呼ばれてはっとした。
「あ・・・・・・」
「時間なら時間と呼んでくれればいいものを」
「だって、この音聴いていたかったんだもん」
「・・・・・・・・・」
照れたのか、ふいっと顔を横に向けて帰るぞ、とぶっきらぼうに返す。
その言葉に「うん」と頷いてその後ろを歩いた。
大きな背中を見つめながら、先ほどの音色を思い起こして。
校門を出たあたりだろうか。彼は突然こう言った。
「今度、合奏するか?」
「え?いいの?」
「たまには息抜きもしたいと思って」
「構わないなら・・・・・・私、合奏したい」
「そうか、じゃあまた今度な。曲は香穂の好きな曲でいい」
「ん。ありがと」
何でも助っ人で今度彼のお母さんが主催する発表会に出ることになったとか。
それで、特別に練習室を借りて練習をしている。
「土浦くん」
「ん?」
「なんかキラキラしてたよ」
「はぁ?」
何訳わかんないことをと言わんばかりの顔をして、こっちを見つめた。
歩いていたはずの足が止まる。
「ピアノ弾いてる姿がね、すごくキラキラしてた。音もね、キラキラしてたの」
「・・・・・・・・・で?」
「私いいなぁって思った。好きだなぁって」
「ふぅーん。それは何か、俺が?」
「うん。土浦くんが好き・・・・・・って、ちょっ、なっ・・・!」
「そうか。へぇー」
にやにやと笑って彼は楽しそうに言った。
「もう! 意地悪」
「俺は、香穂がヴァイオリンを弾いている時がキラキラして見えるけどな」
そう言うと彼はさっさと背を向けて歩き出した。
え?
今、何て?
私はその後姿を慌てて追いかけて、近づくと彼の顔が少し赤いことに気づいた。
それを見てくすっと笑うと、彼は小さく呟く。
「ガラじゃねぇな」
そんな声が耳を捉えて、顔を覗くと大きな手で自分の顔を隠している、そんな彼がいてまた一つ笑みをこぼした。
確かにあの時の彼はキラキラしていたと私は思う。
ピアノの音色がそれを物語っているように、あの時の私は彼に捕らわれていた。
終