カゾクのキモチ


「最初は不思議だったのよねー。あの子、元気の良い子選ぶと思ったんだもん」




土浦の姉が不思議そうな顔をしながら頬杖をついて呟いた。
冬海は返答に困って目の前にあるカップに口をつける。
あたたかな紅茶が冬海の鼻をくすぐり、ふわりと広がる甘さに瞳を閉じた。
そうしてもう一度冬海はこの状況をどうしようかと考えあぐねていた。
隣には土浦の姉、反対の隣には土浦の母。

そう、まさに囲まれた状態なのだ。
彼氏の姉と母に。
しかもソファで。

「あ・・・あの・・・・・・」

「や、笙子ちゃんが悪いんじゃないのよ。あの子ってがさつでしょー?
だから、正直意外だったって言うか、あなたみたいなかわいい子連れてくるなんて思わなかったのよ」

「あぁ、その意見はわかるわね。ごめんなさいね、あの子ホント女の子の扱いに慣れてないって言うか」

「い、いえ・・・・・・!むしろ優しいです!」

勢いよく冬海は答え、土浦の姉も母もくすくすと笑っていた。

「あの子こーんなかわいい子連れてくるなんてねー。楽しいわー」

「本当にね」

「そもそもどっちが先に告白したの?やっぱり梁?それとも笙子ちゃん?」

「あ、あの・・・・・・」

「ほんっとこういうことに鈍そうだもんね、あの子。笙子ちゃんも苦労したでしょう?」

「い、いえ・・・そんなことは・・・・・・」

まるで子ウサギのような冬海に思わず土浦の姉がぎゅっと冬海を抱きしめる。

「あー、もうすっごくかわいー!梁にはもったいないっ!」

「それは同感ね」

「あの子がさつだし、ぶっきらぼうだしねぇ。笙子ちゃんなんて最初びくびくしちゃったんじゃない?」

「た、確かにそんな時もありましたけど・・・・・・」

「あったんだ」

「やっぱりねぇ」

土浦の姉と母は冬海の答えに苦笑いを浮かべていた。

「で、でもピアノの音を聴いて、わかったんです。優しい人なんだと」

「まぁ、あの子のピアノは繊細だものね。体格に似合わず」

「ピアノだけよね」

ぼそりと土浦の姉の呟きに冬海は苦笑いを浮かべながら言葉を続ける。

「すごく、優しいです。いつも助けてくれますし、大事にしてくれてる・・・それがわかるんです」

「笙子ちゃん・・・・・・」

冬海の言葉にじーんときた土浦の姉は冬海を抱きしめる腕を強くした。

「あんな子だけど、見捨てないでやってね」

土浦の母に懇願されてどう答えていいのかわからず、冬海が困った顔をしていると背後から声がした。



「笙子に何を吹き込んでるんだよ」



まさにグッドタイミングというべきなのだろうか。
買出しに出されていた土浦が帰ってきた。手には重そうな食材の袋を持って。
そう、この最初は彼女を連れて来いと言う土浦の姉と母のお達しから始まる。
土浦は渋々了承し、冬海は良いですよ、と答えたそれがキッカケ。
土浦の家に着くなり土浦は買出しに出されて、冬海は土浦の姉と母に囲まれてしまう羽目になったのだ。

「え?べっつにー。それより、梁、ちゃんと買ってきたでしょうね?」

「買ってきたよ、ほら」

そう言って袋を差し出し、土浦の母はそれを受け取るとキッチンへ姿を消した。
土浦の母が姿を消したことで土浦の姉も冬海を抱きしめる手を緩める。

「全く。俺がいないとすぐこれだ」

「だって笙子ちゃんかわいいんだもん」

「姉貴・・・・・・いい加減彼氏と仲直りしたらどうなんだよ」

「五月蝿いわね。そんなこと言ってると笙子ちゃんに振られるわよ」

「えっ!?」

逆に大きな声を挙げたのは冬海で、土浦も姉もきょとんと瞳を丸くする。
そこはむしろ流すところじゃないのか、土浦の心の中の突っ込みは冬海に通じない。
土浦の姉はとうとう我慢できず大きな声で笑い始めた。
どうしていいのかわからないのは冬海だけ。

「梁、ホントいい子連れてきたわねー」

「だろ?わかったらさっさとそこをどけろよ」

「はいはい。あとは二人でごゆっくり」

「へ?あ、はい・・・・・・」

土浦の姉は自分の部屋へと姿を消し、リビングには土浦と冬海だけが残される。
土浦は冬海の横に腰掛け、冬海の頭をぐいっと土浦の肩へと寄せた。

「梁太郎、先輩?」

「このままでいてくれ」

「?・・・・・・はい」

土浦の肩に身を預けて冬海は瞳を閉じる。
心地よい空間。土浦が育ってきた場所、それがこの家。
あたたかい家族に囲まれて育ってきた、それが土浦だ。
きょうだいがいない冬海にとって未知数の場所でもある。

この心地のよさは何だろう。

そう思いながら冬海は現から夢の世界へと誘われていった。


大好きな人がいて、楽しくて。
幸せだと思えるこの場所が愛おしい。
それはきっと土浦がいるから。

大好きな人が隣にいること、それ以上に嬉しいことはないだろう、
眠りにつきながら冬海が最後に思ったことだった。




一方で。

「あーあ、アンタ優しすぎるのもダメだと思うわよ」

「うるせーよ」

「安心しきっちゃって。男は狼なんだぞーってこと教えてあげないと」

「姉貴・・・・・・それは弟に対する言葉か」

「あら。でもそうじゃないとこの先大変よ。ただでさえ、ガードが固そうに見えて実は脆いとこありそうだし」

我ながら当たっているだけに土浦もうっと言葉に詰まる。

「大事ならね、ちゃんと言うことは言わなきゃ。私、笙子ちゃんが義妹になるなら賛成だし」

「あら。私も笙子ちゃんがお嫁さんだったら安心だわー」

「・・・・・・(いい加減どうにかしてくれ)」








*あとがき*
これ書いた時は、原稿に詰まってる時でした(笑)
なんで、弾けたものが書きたいと思った私は何を血迷ったのかこんな感じのを書いてしまいました。こういう第三視点って大好きなんです。だから番外編書くのって好きなんですけど。
時間軸は土浦が高校卒業するかしないかくらいのところです。
頑張れ、土浦って感じ(笑)