風を突っ切って、どこまでもどこまでも走って行こう。
青空の下で、まぶしい太陽の光を浴びて、どこまでも。
うーんと背を伸ばすのも気持ちがいいくらいの快晴がまぶしかった。
朝一で張り切って作ってきた弁当をバケットに入れて両の手で支える。
まだかなと思いながら、その昂揚感がまた何とも言い難かった。
「香穂ちゃん!!」
振り返ると自転車に乗って来た和樹先輩の笑顔が見え、私の顔が自然と綻んだ。
太陽に負けないくらいの笑顔には、私でもかなわないと感じる。
「和樹先輩!!」
ジャッと自転車が少しの砂利をのけて私の目の前で止まった。
ぜぇぜぇと少し荒い息をして、和樹先輩の瞳が私の瞳を捕らえて離さない。
天真爛漫のその笑顔には敵わない。
「香穂ちゃん、早い・・・」
「うん。だって早起きしたの。早く和樹先輩に会いたかったし」
「おれだって」
「いつも先輩が早いから、もっと早く来なきゃって、そう思ったらいてもたってもいられなくて出てきちゃった」
えへへと笑いながらそう言うと、満面の笑みがふり降りた。コツンと額と額がぶつかり合って、吐息がかかる距離で和樹先輩は呟く。
「それは、おれも同じ」
くすっと笑うと、じゃあいこっかと触れ合っていた額から離した。
そこだけ熱を持っていて、私の頬が紅く染まっていく。
ホント、敵わない。
「今日は、どこへ行くんですか?」
私がその背中に向かって尋ねると、振り向いてこう答えた。
「海!」
満面の笑みが返って来て、二人乗りで自転車を駆けていく。
ここからそんなに遠くない、その海へと向かう風はとても気持ちが良かった。
潮の香りが自然と鼻を掠める。
肩に支えてもらうような形で和樹先輩の後ろに立って、足を車輪の軸の中心の外にかけた。
バランスよく乗りながら、その風を突き抜ける。
「どうして今日は海なんですかー?」
自転車をこいでる和樹先輩の背中を見つめながら叫んだ。
青空が眩しいくらいに。
片方の手にはそのままバケットを持ったままで。
「何となくー!」
「どうしてー?」
私が叫ぶと和樹先輩はこう前を向いて叫んでいた。
「本当はどこに行くかなんて関係なかったんだー。だって、香穂ちゃんと二人乗りしたかったんだもん!」
「え・・・・・・っ?」
みるみるうちに自分の頬に熱を帯びたのがわかったのは、潮風が冷たく感じたから。
ぎゅっと掴む肩に力が入りそうで、でもどこかで力が抜け落ちそうになる。
もう、この人は。
どうして、恥ずかしくなるような、嬉しくなるような言葉ばかり言うんだろう。
ちょっと半分涙ぐみながらもそんなこと悟られないように、小さく息を吸って吐いた。
「ね、いいでしょー、二人乗り」
「うんっっ!!」
和樹先輩がどんな顔をして言ってるのかわからないけれど。
でも、何となくわかる。
きっと満面の笑みで言っていることくらい。
二人で駆け抜ける風に、だんだんその香りが強くなる。
潮の匂いがその場所を指し示すように。
海が、近い―――――。
蒼い空と、藍い波と。
白い雲と、その空を駆ける鳥達と。
まぶしいくらいの光が、きっと。
後ろから抱きしめるように、その首に腕を回して寄り添う。
こつんと額がそのくしゃくしゃの髪の毛に当たると同時にこう呟いた。
「ね、二人乗り、悪くないでしょ?」
きっと勝ち誇ったような笑みがそこにあるだろうことは、誰しもがわかること。
そんな笑顔に負けるかのように、小さく「うん」と呟いた。
終