「ねーねー、香穂ちゃん」
「何ですか?」
「これ、知ってる?」
そう言って急に片方の手に持っていたトランペットとポケットにしまっていたマウスピースを口にあてて吹き始めた。
明るい旋律、なぜか楽しくなるような曲調、わくわくする感じ・・・・・・・あ。
「これ、小学校の時の運動会に使われてたような気がする!」
そう叫ぶと、吹いていた音を止め、「でしょ」と笑った。
「急に思い出したんだよねー。で、昨日がさがさと楽譜を探したら出てきたんだ」
「へぇー。これなんて曲なんですか?」
「『トランペット吹きの休日』」
きっぱりと即答して、にっと笑う。
ほら、そんな笑顔もその曲と同じみたい。
ドキドキしながらその顔を見つめて、笑った。
「なんか今の和樹先輩みたい」
くすくすと笑って上目遣いでその先の反応を待った。
「俺?」
「明るくって、今日みたいな休みの時の和樹先輩そのものって感じがする」
「俺って休みの時そういう風に見えるの?」
「はい。いかにも楽しんでるぞーって感じで」
「へぇー、そうかぁ」
「それを見てるとね、私も混ぜてって思うんです。私も一緒に楽しみたいって」
先週の日曜、公園でのことを思い出しながら笑った。
楽しそうに相棒のトランペットを吹いている姿を見ていると、自然と笑みが零れた。
それをたまたま通りかかった土浦が「締りのない顔してるなぁ」と苦笑いを浮かべるほどで。
そんなに緩んでたかなとぺちぺちと顔を叩いたくらいだ。
きょとんと持っていたトランペットを下ろして私を見る。
「香穂ちゃんも混ざろうよ」
「え?」
「一緒に弾こう。一緒に楽しもう!だって休みなんだからさ♪」
敵わないなと思う。
そうやって笑って言われてしまったら、何も言えないじゃない。
「・・・・・・先輩ってすごすぎ」
「え?何?何か言った?」
ぼそっと呟くその言葉は和樹先輩に届くことはなく、空に舞うだけ。
無意識なんだから、と心の中で呟いた。
「いいえー。何でもないです」
「香穂ちゃん・・・言葉に何か含みがあるんだけど」
「それは気のせいでしょう」
にこっと笑って返すとじとっとした瞳で私を見つめ、何か意地悪だと文句を言った。
「先輩、また弾いてください。『トランペット吹きの休日』」
「いいよ」
そう言うとトランペットを上げて吹き始めた。
奏でる音色が明るさを増す。
楽しそうに吹く姿は、また一段とかっこよく見えた。
―――トランペット吹きにとって、休日は何よりも楽しい時間。
終