あなたの生まれた日だから、とても嬉しいの。
ありがとう、生まれてきてくれて。
「香っ穂ちゃーんっ!」
勢いよく走って来た和樹先輩に気づいて私は振り向くと、がばっと抱きつかれた。
あぁ、もう。公衆の面前で・・・・・・。
恥ずかしい気持ちを抑えながら、和樹先輩、と一言言う。
「何?どうしたの?」
無邪気なその瞳は反省の色を見せない・・・・・・というよりも、反省なんてこれっぽっちも思ってないらしい。これだから、とは思っていてもそう抱きつく和樹先輩が大好きだったりするからどうしようもなかった。
そんな自分にため息をつくと、和樹先輩が心配そうな瞳で私を見ていることに気づいた。
「香穂ちゃん、どうしたの?」
「え・・・・・・あ、いや・・・ちょっと恥ずかしいかな、って思って」
「えー?香穂ちゃんおれのこと嫌い?」
「そんなことあるわけないじゃないですか」
きっぱりと答えると、ホント?と尋ねてくる。
私は「ホントです」ともう一度言うと、「良かったー」と肩を撫で下ろすのが見えた。
多分何を言っても、ムリだから、注意するのはやめよう。
結局それも惚れた弱みなのだから、仕方が無い。
「和樹先輩、あそこ、ちょうどいいですよ」
そう言って大きな木の下を指差すと、あ、ホントだと駆け足でその木の下まで駆け寄った。今日は久しぶりに天気がいいから外でランチを食べようっていうことになった。
和樹先輩が大好きなカツサンドも作ってきたし・・・・・・・。
準備は万端、あとはこっそり持って来たこのプレゼントを渡すだけ。
今日は和樹先輩の誕生日。
だから焼いてきたクッキーと、偶然見つけてしまったトランペットのピンバッジを包んだ袋をこっそりと持ち歩く。
気に入ってくれるかな、喜んでくれるかな。
ドキドキ、そわそわ。
落ち着かない気持ちが私の心を揺さぶっていた。
和樹先輩は腰を降ろすと、んーっと背筋を伸ばし、ごろんと横になった。
丁度あたる陽がとてもあたたかくて、心地がいい。
「和樹先輩?」
「んー?」
「寝ちゃうんですか?」
「んー、気持ちいいなーって思っただけだよ」
にこにこ笑いながら、まぶしい日の陽射しを見つめるその瞳が細くなる。
確かに、気持ちいいなぁ・・・そんなことを思っていると急に腕を引っ張られ、私は和樹先輩の胸の上に顔を押し付けた。
「か、和樹先輩?」
慌てて戻ろうとすると、いつの間にか後ろに回されていた手が私の動きを封じる。
しばらくじたばたするも、結局動くのが億劫になって黙り始めた。
ドキドキと心臓の音が間近に聞こえる。
その鼓動に耳を寄せて、私は静かに瞳を閉じた。
冬の陽射しはあたたかい。
少しだけ鼻を掠めるからっ風が頬をつっぱらせるけど。
こうやってドキドキを共有できる時間、それがまた一段と私の心をあたたかくさせる。
「・・・・・・和樹先輩」
「ん?」
「誕生日、おめでとうございます」
「あ、今日おれの誕生日だっけ」
「忘れてたんですか?」
何となくらしくてくすくすと笑っていると、笑いすぎだよーと抗議された。
「おれ、自分の誕生日ってあまり自覚がないんだよ」
苦笑いが漏れる。
私も苦笑いで返した。
「カツサンドとクッキー、作ってきたの」
「え?ホント?」
「うん。あとプレゼントも用意してきたの」
「マジで?」
「うん。だから・・・・・・起きましょう?」
すると腕を緩めて、私も腕から解放され、起き上がる。
その瞬間、油断してる和樹先輩の頬にそっとキスをした。
「か、香穂ちゃん!?」
「えへへ」
たまには私からびっくりさせるのもいいでしょ?
そう言うと、ずるいなぁーってため息を漏らして、そうして私の頬にキスをした。
「バカ」
私が呟くと「お互い様だよ」と言って。
私もそっか、と呟くと楽しそうに笑う和樹先輩がいた。
――――― Happy Birthday!
生まれてきてくれてありがとう。
生まれてきてくれたから、こうやって出会えた。
出会えることの奇跡に感謝して、再度願う。
和樹先輩にとって、幸せな年になりますように・・・・・・・・・。
終