07. 拍手ログ

【花明かり(土冬)】



とっぷりと暮れると言うのはまさにこのことなのだろう。
土浦は思わず暗くなった夜空を見上げて息を吐く。
もう白い息を見つけることは出来ない。それは、冬が終わり、春が訪れた証拠。

「・・・・・・土浦、先輩?」

思わず自分の名前を呼ばれた土浦が振り返ると、そこにいたのは小柄な少女。
クラリネットのケースを手に持つ冬海笙子の姿だった。

「冬海か」

「あ、は、はい・・・・・・」

消え入りそうな声に土浦はしまったと言わんばかりに頭をかく。
少しだけ泣きそうな冬海の姿に土浦ははぁと息を吐いた。
少しは慣れてはきているものの、やはり自分だと怖いのか。
ちら、と横目で冬海を見つめると冬海は上へと視線を上げる。

「冬海?」

「あの・・・桜の、花が綺麗だなと、思って・・・・・・」

暗がりの中、光も当たっていないのに、自然とその花が映えているような不思議な感覚。
鮮明に映されるその姿に土浦も思わず桜を見入る。

「・・・・・・・そうだな」

土浦が頷くとほっとしたのか冬海は肩を撫で下ろした。
暗い中でもそこにあると主張するようにその花びらは光を放つ。
白く淡い、時折ピンク色に染めた花びらが。
そして、それを見上げる少女の横顔も。

―――今、俺は何を考えた?

土浦は思わず頭をかく。
桜の花と、冬海の横顔と、交互に見つめながら小さく息を吐いた。
まだ気づかぬ想い。
ちく、と胸に刻まれたのは小さな恋の始まりだった。







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