フルーツケーキ


これだけは自分で作りたいと思ったお菓子があった。
たまたま一年上の先輩達と話をしている時にのぼったお菓子の所以を聞いていて、いいなと心の中で思っていた。

『大事な日にね、フルーツをつけるの。つけたフルーツを大事な記念日にケーキで焼くって言う話があるんだ。
それを繰り返す度にそのフルーツの味は深まるでしょ。どれだけ、その人と一緒にいたか、そのフルーツが教えてくれるって訳。
ちょっとロマンチックだよね。私もそうやって記念日ごとに焼いて、食べてもらえる人がいたら幸せなのに〜!』

報道部のホープと呼ばれる天羽先輩からの情報だった。
それを隣で聞いていた私と香穂子先輩は熱心に聞き入っていたのを覚えている。
その後すぐに香穂子先輩が「私もフルーツつけ始めたんだよ」と言っていた。
もちろん、彼――香穂子先輩の彼である火原先輩に食べてもらうために。
そんなことを思い出して、ふふっと笑いながら目の前の作業に戻る。
私にも去年、好きな人ができた。
セレクションで同じくライバルであった人。
身長が高くて怖いと思っていたのに、そんなことなくて、むしろ優しい人。
偶然にも気持ちが同じだと言うコトを知ったのは去年の冬だった。
それからつけておいたフルーツの瓶を取り出して、ケーキを焼く。


明日は、土浦先輩の誕生日だから。









「あの、これ・・・・・・作ってみたんです」

一人で初めて作ったケーキをラッピングして、コンサートの帰りに寄った喫茶店で先輩にそう言って渡した。
驚いた顔をして、ラッピングした包みと私とを交互に見て尋ねた。

「お前が?」

「誕生日・・・ですよね?」

間違えたかな、とかしどろもどろになりながら頭の中でぐるぐると回る。
ドキドキしながらその答えを待った。

「そうだが・・・・・・いいのか?」

「先輩だから、渡したいんです」

いつものおどおどしさもどこか、きっぱりとした口調でそう答えた。

握られていたその包みをそっと先輩は取り上げ、リボンを解く。
中には一つずつにカットされたフルーツケーキを取り出して、また縛られているリボンを解いた。

「フルーツケーキだな」

「は、はい・・・・・・以前、天羽先輩から、ちょっとした話を教えてもらって・・・・・・」

「へぇ。天羽がね。意外だ」

中のフルーツケーキを取り出すとぱくりと先輩の口の中へと一口入る。
どんな反応をするのか、それが一番の気になるところで、普段意外と料理をする先輩だからこそ言えることなのだけど。

「ん、美味い」

言葉少ないが褒められたのだと気づくと、自然と頬が緩む。
渡せて、良かった・・・・・・。

「初めてだから、その・・・美味しいか、自信なくて・・・美味しいって言ってもらえて、嬉しいです」

「うん、甘さも控えめだし、俺は好きだ」

「本当、ですか?」

「ああ。また作ってくれよな」

そう言って笑ってくれたから。

「はい!」

と答える私がいて、そんな私を見て先輩はまた笑った。




大事な日、記念日に焼くお菓子だと言った天羽先輩の言葉は忘れない。
きっと、来年もまたこの日に渡せたらいいと、そう思って、目の前にある少し冷めてしまった紅茶に一口口をつけた。






(後日談)

「そう言えば天羽が言ってたフルーツケーキにまつわる話って何だ?」

思い出したように土浦が問うと、冬海は一瞬返答に困うも、恥ずかしそうにこう答えた。


「女の、秘密です」


恥ずかしがる冬海と、クエスチョンマークを浮かべてやや不思議そうに見る土浦の姿は、傍から見ても滑稽だったとか。偶然にもそこを通りかかった香穂子が火原に熱心にそのことを伝えていたのを、天羽が見てくすっと笑っていた。






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