フラワー 


女の子にとって…誕生日というのは、特別なもの。
一年にたった一度。
大人になっていく、目に見えないステップ・アップ。

それを、好きな人に祝ってもらえたらどんなに幸せだろう――。



「おはようございます火原先輩」
「おはよー、香穂ちゃん!」

始まりはいつもの挨拶。
いつもより彼の様子はそわそわしていてぎこちなかったけれど、それだけだ。
どうやら今日の朝一にあるという英語のテストの勉強を、
昨日寝てしまってほとんどしてないらしい。
いつもの鞄にプラスしてもう一つ鞄を持っているのは、辞書でも入っているのだろう。
私も寝ちゃったことありましたよ、あの時は大変で…などと言ってるうちに、
学校に着いてしまった。

「じゃ、私ここで。テスト頑張って下さい」
「うん、あとは教室でぐわーと頑張るよ!じゃあね」

いつもの、他愛もない会話。
期待していたというほど大袈裟な感情ではないけれど、
やはり今日が誕生日だという意識が大きい香穂子は、
一人になってどこか拍子抜けしていた。

「おはよ香穂子。お誕生日おめでと!」
「わ、ありがとう〜!」

教室に入ると一番の友達がプレゼントの袋を渡してくれた。
香穂子がずっと欲しいと言っていた、新しいペンケースだ。

「ありがとう、嬉しいよー!」
「放課後どこかでケーキでも食べる?あ、でも…」
「ん?」
「今年はダメか。火原先輩と一緒に…だよね」

親友のその言葉を聞いた瞬間、香穂子は電流に打たれたように思い起こした。


――私、火原先輩に自分の誕生日言ったことない!


思い返してみればそういう話になったことがなかった。
彼の誕生日は、確かコンクールの時に報道部の天羽菜美と仲良くなって
校内新聞を見せてもらった時に覚えたのだ。
自分にとって自分の誕生日は当たり前に覚えているものだが、
一度も聞いたことない人が、自分の誕生日を覚えていてくれるわけがない。

「いや…わかんない。ダメだ」
「へ?」

がっくり肩を落とした香穂子を見て、友達は不思議そうに目を丸くしたが、
ちょうどそこでチャイムが鳴った。


”私、今日誕生日なんですよ”
こう、放課後に言ってみようか。
だがこれはこれで、何だかプレゼントを期待しています、という風に聞こえて
何だか気が引ける。

香穂子は別に物が欲しいわけではない。
ただ、自分だけの特別な日に、好きな人の温かい祝福が聞きたいだけだ。
それを自分から演出するのは何か違う気がする。

…まあ、しょうがないか。
わざわざ自分からそんなことを言って、彼に気を遣わせることもない。
微妙にテンションの下がった香穂子の誕生日は、
先生の授業が重なるたびに過ぎていった。


「香穂ちゃーん!」

放課後になると、火原がせわしない様子で迎えに来た。
付き合うようになってから、出来るだけ毎日一緒に帰るようにしている。
何もない時は必ずすぐに教室まで走ってきてくれる火原が、香穂子はとても好きだった。
普通でもこんなに幸せなんだから、特別なことなんて望むまい。

「香穂ちゃんっ、この後ヒマある?」
「え、あ、ありますけど…」
「良かった〜!じゃ、行こう」

行くってどこに?
そう問い返す前にしっかりと手を握られて。
香穂子はかろうじて掴んだ鞄を抱えて、あれよあれよという間に校門前に連れて行かれた。

校門前の、真ん中。
学校のシンボルとして立つ妖精像。
多くの人はただの迷信や伝説だと思っているけれど、香穂子は知っている。
ここに、この像と同じ、愛嬌のある顔をしてよく笑う音楽を愛する妖精がいることを――。

「えーと、ゴホン」

何故か顔を赤らめて気持ちを落ち着けるように咳ばらいをする火原。
香穂子が首をかしげているうちに、朝持っていた辞書入りと思われる鞄から何かを取り出した。
そのまままっすぐ、香穂子の前に差し出す。


「香穂ちゃん、お誕生日おめでとう!」


それは、色とりどりの花束だった。
ピンクのバラとか、かすみ草とか、名前はわからないけれど可愛らしい花とか。

ふわっと香った馨しい匂いに、わけもわからないまま誘われたように手を差し出した。
ぼうっとしてしまった香穂子を見て火原の表情が不安げに曇る。

「あ、あれ。花とか嫌いだった?」
「いえ違うんです。ただその…」

手の中の色彩の鮮やかさに未だドキドキしながらも、
火原の言葉だけは必死で否定する。

「私…火原先輩に誕生日言ったことなかったのに…どうして、って…」
「え?やだなあちゃんと知ってるよ」

当たり前のように笑い飛ばす火原。
妖精像の前で繰り広げられる花束贈呈に、帰る生徒達が何だ何だと視線を送っている。

「コンクールの時にさ、参加者のプロフィールとか出てた新聞あったじゃん。
 あれで香穂ちゃんの誕生日知ったんだよ」

私が、先輩の誕生日を知ったのと同じだ――。
香穂子は思わぬ偶然に鼓動が高鳴った。
確かに、参加者として自分も、天羽のインタビューを受けた。
女の子である香穂子なら、参加者の、まして好きな人の誕生日をチェックしていても不思議はないが、
しかし火原が見て覚えているとは思わなかった。

「ひ、火原先輩ってそういうの読み込む人だと思わなくて…」
「あー、ひどいなあ。確かにいつもはぱーっとしか読まないけどさ。
 香穂ちゃんのことだったら一生懸命読んだよ」

どうしてこの人は素で、自分をうれしがらせるようなことばかり言うのだろう。
香穂子は顔が熱くなるのを感じた。

「おれ女の子にプレゼントするなんてほとんど初めてでさ。
 色々考えたんだけど、やっぱり昔から夢だった、花束贈ろうと思って」
「夢…ですか」
「うん。幼稚園の頃とかって、同じ組の女の子はみんなお花が好きでね。
 お花の絵を描いたり、道のお花摘んだりしてるの見てるうちに、
 ”ああ、女の子に花って似合うなぁ。おれもいつか好きな子に花贈ろう”って思うようになって」

でも決めてからがなかなか大変だったと言う。
花屋に行っても、火原には花の知識もセンスもないから、
どんな花束にすればいいのかまるでわからなかった。
しかし店員任せにするのも嫌で、
あれこれ教えてもらってやっと見栄えのいい可愛い花束が出来た。
おやつ時に行ったはずなのに、既に日が暮れていた。

いざ花束が出来たのはいいが、これを学校に持って行くのはなかなか大変だ。
そんなに大きい花束ではないが、まさか教科書などと一緒に入れるわけにはいかない。
それで潰れないように、もう一つ鞄を持ってその中に入れた。

そして、出来るならこの妖精像の前で渡したかったのだと言う。
だから朝は香穂子から隠さねばならずそわそわしていたと――。

「何で、妖精像の前で?」
「だって、リリが俺たちを会わせてくれたようなものじゃない?
 だから、リリにもありがとうって。見ててほしいなって思って」

「リリ〜、見てる?」と像に向かって手を振る火原。
その姿は他の人の目から見ればまるでおかしなものだったが――、
香穂子には、世界で一番愛おしく見えた。

朝から感じていた気鬱はすっかり消えてしまった。
これは火原先輩の起こす魔法だ。
頭をひねって選んでくれた色とりどりの花たちが、
香穂子をいくらでも幸せにしてくれる。

たまらず、大好きな胸に飛び込んだ。

「わわっ、香穂ちゃん!?」
「ありがとうございます、火原先輩――。だいすき」

普段は照れてしまってなかなか言えない言葉。
けれど、誰よりもてらいのない、純粋な彼を見ていると、
自然と口から素直な気持ちがこぼれていた。

火原はしばらく口をぱくぱくさせて顔を真っ赤にしていたが、
頬を掻いた後そっと背中に手を回してくれた。

「――おれも、だいすき。本当に、お誕生日おめでとう」

この世のどこを探してもこんなに優しい響きの言葉はない。
火原の腕の中で香穂子は、肩越しに見える手に持った花束の明るさを、
もう一度瞳に映して微笑んだ。


――妖精像の前で、堂々と抱き合って告白しあっていたカップルが、
またも校内新聞の記事を飾ることになってしまうのは、
もう少し、後の話――。








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瑞季さんに捧げます。

というわけで久しぶりに挑戦してみた火原×香穂子でした。読みづらい色ですみません;
お誕生日に差し上げるものだから…と結局お誕生日ネタしか思い浮かばなかった単純な私です。
題名はKinki Kidsの「フラワー」です(笑)
あの歌ってとっても火原×香穂子だと思うの!(また始まったよ)
こんなバカップルな話ですみませんが、とにかく祝福の気持ちはいっぱい込めて。
瑞季さん、お誕生日おめでとうございます!



05.02.16 hisaku

*お返し*
誕生日の時に頂きました!
ありがとうございます、ヒサクさん!!すっごく嬉しかったです。
是非、柚木で・・・・・・!(笑)←まだ書いてる最中ですが。
素敵な作品をありがとうございました!!