初夏の陽気が漂う陽射しの中、日野香穂子はあるものに目を奪われていた。
そんな香穂子を横で不安そうな眼差しを向けていたのは火原和樹だった。
「あ、あのー・・・香穂ちゃん?」
真剣な眼差しは一点に集中される。
火原は肩を透かして香穂子を見遣ると香穂子は眉間に皺を寄せていた。
香穂子が注目しているもの、それは。
「やっぱり、これ美味しそうだなぁ」
「だったら、食べようよ。おれ、おごるし」
「でも、それは悪いし」
「全然大丈夫だよ。ね、香穂ちゃん食べよう?」
火原の提案に香穂子の瞳はじっと火原を見つめ、火原はごくりと喉を鳴らした。見上げる香穂子の表情はいつもと違って迫力がある。
「・・・・・・わかりました。じゃあ、お願いします」
ぺこりと小さく頭を下げて香穂子は火原にお願いすると「わかった」と笑顔で火原は答えた。
「おねえさん、チョコミント二つちょうだい」
火原の明るい声が空の下に響く。
アイスを売る女性は火原の要望にすばやく答え、火原へ二つ分のアイスを差し出した。
ありがとう、とお礼を口にし、火原と香穂子はチョコミントアイスを口にしながら歩き始める。
ぺろりと舐めたチョコミントアイスはさわやかなミントと甘いチョコレートが混ざり合って、美味しいハーモニーを奏でていた。
「やっぱりおいしいね」
「はい!」
香穂子がどうして眉間に皺を寄せてそれを見ていたのか、それは美味しそうなアイスが並ぶ店頭で、自分の財布を見てみると残りの残高がアイスの金額に見合わなかったためだった。
火原がおごるよ、と言ってもなかなか香穂子は首を縦に振らずにいたのは、火原におごって貰うのは悪いと言う香穂子の気遣いのせいでもある。
だが、火原からして見れば、しかめっ面でいる香穂子よりもこうしてアイスを美味しそうに食べる香穂子の方が何倍も良いに決まっているからだ。
「・・・・・・ありがとうございます、和樹先輩」
「え? あ、うん。香穂ちゃんが喜んでくれるならおれも嬉しいし」
それにね、と火原は言葉を付け加える。
「香穂ちゃんの笑顔が見たいって思ったんだ」
「え?」
予想しなかった答えに香穂子はきょとんと大きな瞳を火原へ向けた。
どうして、と小首を傾げて香穂子は問う。
「ずっとしわ寄せて真剣に見てるんだもん。香穂ちゃんは笑顔が一番だから、だったら笑顔になってほしいなって、そう思ったんだ」
「和樹先輩・・・・・・」
じわりと胸に熱く広がる想いに香穂子は少し泣きそうになった。
愛しいと思う気持ちが香穂子の頬を紅く染める。
「・・・・・・大好き、和樹先輩」
ぽすん、と火原の肩に香穂子は頭を傾けると、火原は「うん、おれも」と頷いた。
「おれも香穂ちゃんのこと大好きだよ」
さわやかなミントの香りとチョコレートの甘さが二人を包み込む。
初夏の陽気に酔いながら二人は柔らかに微笑むと溶けそうになっているアイスを口に運んだ。
「おいしいね、香穂ちゃん」
「はい、美味しいですね!」
満面の笑みがさわやかに甘く溶ける。
やさしいチョコミントアイスに想いを寄せながら、二人はもう一度アイスを口にした。
あまい、あまいやさしい味を。
終