チェンジ!


この事件はとある会話から始まったものだった。




黙って紙パックに入っているイチゴ・オレを飲んでいた天羽菜美がぽつりと呟いた、そんな言葉に。
その場にいた日野香穂子と冬海笙子は小首を傾げた。

「ね、今何て言ったわけ?」

香穂子はもう一度菜美へと問う。
菜美はきょとんとした顔でその言葉を反芻した。


「だから、制服取り替えてみない?」

「はぁ? いつどこでそんな会話が成り立つのよ」


香穂子は呆れた顔をして菜美へと口を尖らせる。
笙子は困った顔をして二人を交互に見つめていた。

「正確には音楽科と普通科の制服を交換しようって言ってるわけ」

だって面白そうじゃん、そう言う菜美に困った顔をしたのは笙子だった。
香穂子は眉間に皺を寄せたまま言葉を接ぐ。

「確かに面白そうかもしれないけど、第一私と笙子ちゃんはできても菜美はできないじゃない」

身長違うんだし、サイズだって違うだろうし、と小さな声で香穂子は呟く。
菜美はスタイルがいい。だから当然サイズが違うことくらい香穂子は承知の上で。

「うん。いつ私がやるっていったっけ? もちろん香穂と笙子ちゃんに決まってるじゃん」

しれっとした顔でこう返されては香穂子も言葉に詰まるというか。

「だーかーら、何でそんなことしなきゃいけないわけ」

「でも着てみたいでしょ。まぁ来年着るにしてもさ。笙子ちゃんだってもう着ることない普通科の制服着てみたくない?」

まるで悪魔の囁きのようなそれに香穂子も笙子も唸っていた。
それもそのはず。
一度は誰しも思うことで、特に星奏学院の普通科と音楽科は制服がまるきり違う。
当然その誘惑は誰もが望むのだ。

「そりゃ、そうだけど・・・・・・」

「で、でも」

「なーに、お泊り会の時にしようって言ってるの。今すぐとは誰も言ってないわよ」

どうせ今週の金曜は笙子ちゃんちでお泊りだし、そう菜美はひとりごちた。
その声は香穂子にも笙子にも届かない。

「うーん・・・まぁ、そういうことなら」

「そうですね、それでしたら良いです」

二人はその言葉に頷く。
この言葉の裏に隠されているものを見つけるのはそれが終わってからのことだった。






学校帰り、珍しく火原と帰らず笙子や菜美ら女三人で帰ることになった。
火原はいいなーと羨ましげに香穂子に呟いていたという。
そして長い道のりを経てようやく着いた笙子の家で早速それは行われた。

「さ、二人とも。制服交換、交換♪」

「え、今やるの?」

「もちろん。二人ともさぁ制服交換してみよー」

楽しそうに菜美は言い、香穂子と笙子は一度互いを見遣るとおもむろに制服を脱ぎ始めた。
女の子同士だからできること。
ここに火原がいたら絶対にできないものだと香穂子は思う。
暫くすると二人は互いの制服を交換してそれに袖を通した。
香穂子がいつも着ている普通科の制服。
笙子がいつも着ている音楽科の制服。
それを見ていた菜美は思わず言葉をこぼした。

「へぇ〜。意外といけてるじゃない」

香穂子は白の制服に身を包み、笙子は黒に近い色合いの制服に袖を通す。
香穂子は数ヵ月後にこの制服を着ることとなり、笙子はもう着ることはない。
だからこそある意味貴重なこの構図。

「ね、写真撮っていい? 記念に一枚」

「えー、撮るの?」

「もちろん。記念写真よ。面白いじゃない」

「まぁそうだけど」

「まぁ私たちだけなんだし、気にしない気にしない」

菜美はけらけらと笑って返す。香穂子も笙子も照れ笑いでそのシャッターの前に立った。
菜美は数回シャッターを切る。
笙子ははにかんだ笑顔を見せる。
香穂子はまじまじとその制服を見つめていた。
きっと自分がこの制服を着る時を考えていたのだろうと菜美はシャッターを切りながら思っていた。

「うん、良いじゃない。あとで出来上がったら渡すよー」

「ありがと」

「ありがとうございます」

二人は何も知らないずにその笑顔を向ける。
それが後々とんだ羽目になるとは誰も予想していなかった。







数日後、菜美はその写真を持って香穂子たちの前に示した。

「わー、きれいに取れてるね」

「もちろんよ。この天羽菜美様をなめるでない」

「ふふっ。ありがとうございます」

三人で数枚の写真を見つめる。一人だけのショット。二人一緒のショット。
そして最後は三人で撮った一枚。
菜美は当然この出来に満足していた。

「二人とも、あとで焼き回ししたのあげるね」

「ありがとー」

「ありがとうございます」

そう笑っていた矢先のことだった。
ここは屋上。
たまたま強い風が吹き、三人とも思わず顔をしかめて、髪の毛をおさえたその時だった。
菜美の手にあったはずの写真がふわりと舞い、勢いよく開いたドアの向こうにいた人物にぶつかる。

「うわっ!何これっ!」

顔面でキャッチした数枚の写真を火原がはがした瞬間、写っていたものに声をあげる。
もちろんその制服の写真もそうだが。
もう一つだけちがうのが写っていた。

「香穂ちゃん――――!?」

「きゃあ!火原先輩!!」

火原の後についてきた土浦となぜかその場にいた志水、柚木、月森もそれに視線を移す。

「うわっ!」

「きゃー!」

菜美の驚いた声と、笙子の叫び声が屋上に木霊する。
香穂子は呆然とそれを見ていた。
もちろんこの五人はそれ以上言葉で突っ込むことはなかったが。
香穂子も笙子も菜美も顔を赤くしていたのだけはしっかりと五人の目に残っていたことは間違いない。
写っていたものはパジャマ姿の三人。
中華服のようなパジャマ姿は菜美、かわいいフリルのネグリジェは笙子、同じくフリルをまとうパジャマだったのは香穂子だった。
普段見られない光景。
誰もが知らない事実がそこにはあった。

そしてあの写真達を記憶の奥に眠らせるにはあまりにもったいなく。
後々、火原は菜美にお願いしてその写真を入手したのは誰もが予想できる範囲内であったことは言うまでもない。









*あとがき*
久しぶりのコメディ調でした。
この三人は明るくて楽しいです、書いてて。
やっぱり女の子は華だなぁと思った瞬間でした。