いつも君を傷つけて、悲しそうな瞳で自分を見つめて。
困らせるつもりなんて、気持ちをぶつけるつもりなんてなかったんだ。
「いつだって本当のこと言ってくれないって日野が文句言ってたぞ」
ふいに背後から聞こえる言葉に加地は振り向いた。
やれやれ、と肩を透かして言うのは同じく普通科である土浦梁太郎だった。
「土浦」
「勘弁してくれよ。日野の愚痴が俺に来てるんだよ」
「ごめんごめん。まさか土浦に向くとは思わなかったよ」
加地もまた曖昧な表情を浮かべて土浦へと言葉を返す。土浦は小さくため息をつきながら加地の瞳を見つめていた。日野が文句言うのも分るような気がするな、と一人ごちた。
「なぁ、加地。お前耳が良いって言ってたよな?」
「あ、うん・・・・・・それがどうかした?」
「それが原因で自分の音を聞くのが辛い、そう言うことか?」
土浦の的を得た答えに加地の眉間に皺が寄る。誰にも言ったことがなかったのに、目の間にいる土浦はさらりと言葉を口にした。ある意味すごいなと感心する。
「・・・・・・まぁ、間違ってはいないけど」
「まぁ、確かに他の連中の音は俺も刺激されるからな。少しはわかるさ。ましてや日野はやり始めたのが遅いにも関わらず、センスが良いんだろう。吸収力があるからな」
「そうだね。そう言うところ、日野さんは無自覚だけど」
ちら、と土浦は加地を見遣る。こいつも無自覚だよな、と思うもそう言ったところで驚くだろうことはわかっていた。自分の音と言うのは嫌と言うほど気持ちに反映されることがある。今の加地は気持ちに左右されている状態だと言っても間違いではない。
「・・・・・・お前もなんだよ、加地」
「え?」
「お前、自分の音の限界を知ってるって思ってるだろ?」
「あ、うん・・・・・・」
「それ、違うんじゃないか? 音には限界がない。音って言うのは反映してくるものがその時々で違うと俺は思う。少なくても今のお前はそうなんだって俺は思うけどな」
「土浦?」
土浦の言わんとすることが理解できず、加地は小首を傾げた。土浦が言いたいことは何なのか、加地は黙って土浦の言葉に耳を傾けた。
「今のお前の音は少し窮屈なんだ。もっと素直に自分の音に耳を傾けてみろよ」
「窮屈・・・・・・」
「日野は加地の本来の音が別の場所にあるって思ってるんだよ。だから、話をして欲しい、そう言ってるんだと俺は思った。まぁ、あくまで日野の視点からのものだけどさ。そう考えてみるのも悪くないんじゃないか?」
「土浦・・・・・・」
まぁ、あとはお前次第だけどな、そう付け加えて土浦は息を吐いた。
加地はまじまじと土浦の顔を見つめながら思案する。日野が言いたかったのはそう言うことなんだと言われ、初めてあの瞳の意味を理解する。
苛立ってるように見えたあの瞳の奥に隠されていたのは『寂しさ』。
「さっさと仲直りしろよ。不協和音は勘弁してくれ」
そう言い残して土浦はくるりと踵を返して、教室へと戻ってゆく。土浦の背中を見つめながら加地は自分の手を見つめた。ヴァイオリンよりも大きなヴィオラを弾きたいと思ったからヴァイオリンではなく、ヴィオラを選んだ。あの時の気持ちは今でも忘れていないつもりだった。
確かに上手い下手も関係してくるには関係してくるが、技術面は練習することでカバーできる部分も多い。要は気持ちの問題なのだ。
「・・・・・・ごめんね、日野さん」
加地は謝罪の言葉を口にすると、自分の教室へと足を踏み入れる。
もう一度素直に自分の音と向き合おう、加地の中で確かな気持ちが生まれていた。
3話終了
*ひとこと:
3話で終わりませんでした・・・あー、やっぱり?
土浦登場です。さすが土浦。アドバイザー的役割強いなぁ、この人。
次で多分終わりだと思います・・・多分ですけど。
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