惹かれれば惹かれるほど、苦しいなんて。
何て身勝手な恋なんだろうか。
知りたいと願ったのはあの日――日野香穂子の音を初めて聴いた日のこと。
綺麗だ、と思ったのと同時に心の奥底に響く音色が加地の耳を捉えていた。。
捉えていた、と言うよりも囚われたのかもしれない。
そして決意したのは彼女のいる学校に行きたい、そう思っていた。
近づいたのは良いが、近づけば近づくほどその距離はどんどん遠くなっていくことを実感する。
自分が捨てたもの、それを彼女は持っていた。
できるのならばなりたかったのはヴィオラ奏者。
音楽で生きていけたら、そう願ったもののいつか諦めてしまったのは自分の壁を知ってしまったから。
だからこの星奏学院に来ることも一瞬躊躇した。
それこそ見たくないものまで目の当たりにしてしまうのではないか。
その予感は的中する。
そして、今自分はここで立ち止まっていた。
「加地くんっていつも肝心なことは言わないよね」
ぷぅっと頬を膨らませてがしがしとストローを氷に突っ込みながら、心地よいアルトの声音が加地の耳に届いてはっと我に返った。
「あ・・・ごめんごめん。どうかした?」
「加地くんって、いつも肝心なこと言わないって話。何かに悩んでるの?」
日野の問いに加地は思わず苦笑いを浮かべる。
「ううん。何でもないんだ。ごめんね」
そのごめんの意味がどの意味に当たるのか、加地自身よくわからないでいた。
疑い深い瞳で日野は加地をじっと見上げ、加地は笑っていた。
正確には笑っているよりも引きつっていたのかもしれない。
「私にはいつも聞いてくるくせに、加地くんは自分のこと何もしゃべろうとしない。それってすごくずるいよ」
「日野さん・・・・・・」
「私じゃ力になれない?いつもそんな目で見られるのは、正直辛いんだよ・・・・・・?」
日野の言葉に加地ははっとする。
どんな目をしているのかはっきりとはわからないが、でも何となく想像つく自分の視線。
日野はその瞳が辛いのだと言う。
でも、きっと君にはわからないでしょう?
加地はそっと瞳を伏せて日野へと向きなおし、日野は少し睨みつけるような瞳で加地を見つめる。その原因がまさか日野なのだとは言えない。
「ごめんね。そんなつもりなかったんだけど・・・そっか、うん」
一人頷く加地に日野はやはり不安そうな瞳を向けていた。
諦めた夢、でも諦めつつも諦められない想い。
日野達といればいるほど自分との差を感じて、一人いじけそうになる。
くだらないとわかっていても、それはどうしようもない。
「・・・・・・しばらく一人にしてくれるかな?」
「・・・・・・わかった」
日野は席を立つと加地から遠ざかってゆく。
その後姿を見つめながら小さく息を吐いた。
どうして捨てようとする想いがいつまでもここにあって、それで日野にまで迷惑をかけてしまうのだろう。いい加減諦めたはずなのに、往生際が悪いなと加地は悪態をつく。
「君にだけは知られたくないんだ」
加地の小さな呟きを日野は知らない。
加地は瞳を細めて香穂子の背中をじっと見つめると、視線を窓の外へと向けて一つ息を吐く。
息苦しいのに、どうしてすがり付こうとしているんだろう。
どうして日野の音を切実に望むのか。
知りたいのは加地も同じだった。
2話終了
*ひとこと:
書いててよっくわかりましたが、やっぱり加地は自分と重ねてしまいます。
そしてシリアスなことこの上ありません。何でラブにならないんだろうねぇ・・・私。
香穂ちゃんごめん、と思いながら書いてしまいました。
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