茜さす空の色が教室を染め上げてゆく。
廊下を一人歩きながら時折視線を向けた先にある教室の黒板の色が、緑から黒に変化していた。
そんな様子をぼんやりとした顔で見つめながらゆっくりと歩く。
久しぶりの放課後、運良く使えた練習室でのクラリネットでの練習は楽しかった。
家で吹くよりも、なぜか緊張感がある。
微妙に聴こえてくる隣の練習室の音が漏れて、それが余計に自分の心を奮い立たせていた。
「あれ、冬海」
頭上から降ってくる言葉に顔を反対へ向かせるとそこには想い人が立っていた。
「土浦先輩」
「お前、今終ったのか?」
「あ、はい。今から帰ろうと思って」
「俺も今終ったとこだから一緒に帰るか」
その言葉が嬉しくて、思わず笑みがこぼれた。
小さな幸せが重なる。それがまた嬉しいと思うから、余計に想いは募る。
あのコンクールから一年経て、自分に残ったものは大きかった。
ちゃんと自分の気持ちを伝える強さ。
前以上にクラリネットを吹く楽しさ。
そして何よりも、大切な人がいるという幸せ。
どうしても一人でパニックを起こして、伝えたいことがうまく伝わらないこともある。
けれど、昔ほど伝わらないと言うことはない。
これも全部、大切な人たちから強さを貰ったから、頑張れた。
「受験勉強ははかどってますか?」
久しぶりに会うわけでもないのに、と思っていても心配してしまう。
あと数ヶ月もすれば離れ離れになるのは明確で。
きっと一年上の先輩もそれには随分と悩まされたんだろうと、今だからわかった。
「まぁな、一応ってとこだろ」
「頑張って下さいね」
そう言って笑うと、頭を大きな手が覆い、ぐいっと引っ張った。
何がなんだかわからなくなって、その意図が読めなくて。
「・・・土浦、先輩・・・・・・?」
「そんな顔すんなよ。すぐだろ」
優しく頭を撫でながら告げる言葉が妙に暖かくて。
「そ、うですね・・・・・・」
何で解ってしまったのだろう。
ちゃんと笑ったはずなのに。
どうして、言葉にしない言葉までわかってしまうのか。
大きな手が優しく撫でるから、一粒の雫がこぼれ落ちる。
「受験終ったら、お前の伴奏やるから」
「はい。楽しみにしてます」
そう言って笑って顔を上げる。
優しく笑って自分を見つめて。
見えない未来を嘆くよりも、今の幸せな時間を大切にしたいと思う。
きっとこの想いが変わることはない。
噛みしめる想いが一つ、幸せをまた運ぶから。
溢れる想いを抱きしめて、
明るい未来に祈ろう――――。
終