月夜に願って


あなたにとって大切な日だからこそ、ちゃんと言葉で伝えたい。
声にしたい想いがここにあるから。


はぁ、はぁと息を切らして小日向かなでは学校から一直線で自分の住む寮へと向かう。
急いで帰らなきゃ、その気持ちがよりかなでの心を急かしていた。
一番星が見え始めた頃の、小日向かなで、高校三年の夏を迎えようとしている七月上旬の話である。

「着いたー! 部屋部屋っ!」

気持ちが急いたままでは足が上手く追いつかないのか、若干もつれ気味で、慌てて自分の部屋のドアを開ける。
そしてかなでは携帯電話を手に取ると部屋の時計と見比べて、よし、と気合を入れた。
今の時間は夜の六時半。部活の後に寄った場所も場所だったため、人よりも遅い時間になってしまったのは仕方がない。
携帯電話のアドレス帳の一番上にあるその名前を押して、かなでは電話を掛ける。
メッセージなら日付が変わった時に送った。
ありがとう、とも言っていた。
でも、本当に伝えたいものとかは今のこの時間を選んだからまだ本当の意味で伝えたいことを言っていない。
プルルル、と数回のコール音の後その人は出た。

『・・・もしもし?』

「あ、火積くん? 良かった、出てくれて!」

『・・・・・・は?』

「ええっと、火積くんって今、帰ってきたところ?」

『あ、ああ・・・・・・もしかして、これのことか?』

「あ、ちゃんと届いたんだね。良かった」

ほっと胸を撫で下ろすかなでの声に火積は目の前にある箱を訝しげな表情で眺める。
一体これの中に何が入ってるんだろうか。

「ね、開けてみて」

ふふっと受話器越しにかなでの笑みが火積の耳に触れた。
火積は箱の包み紙を開けると白い箱そのものが出てきて小首を傾げる。
片手で持てるくらいの箱。少しだけひんやりとしているのは一緒にクール便でもあったんだろうかと思ってしまうくらいに冷たかった。
そっとその箱を開けてみると中から出てきたのは。

『これ・・・・・・』

「えへへー。日持ちはそこまでいいものではないけど、クール便にするほどでもないものをって思って作ったの」

目の前から出てきたのは彩られているカップケーキとクッキー、そしてメッセージカード。
思わずその手に小さなメッセージカードを手にとって火積は目で読む。

『ハッピーバースデー! 火積くん
火積くんにとって幸せな一年になりますように。
一緒に入れたカップケーキは火積くんに合わせて甘さ控えめです。
もちろん、クッキーもだよ。食べて下さいな。
                                     かなで』

以前甘いものは嫌いではないが、量はそれほど多く食べないと言っていたのが記憶にあったのだろう。だからこそ甘さ控えめで作ってくれたらしい、その気遣いに火積は感謝をする。

「ハッピーバースデー・・・って日付越えた時にも言ったけど改めて」

『・・・・・・ありがとな』

「どういたしましてー。だって、火積くんが生まれた大事な日だもの。何か頑張りたいじゃない?どうせならびっくりさせようと思って帰って来る時間を指定してみました」

えへへ、どーだ、と笑う声に思わず自分の頬が綻んでいることに火積は気づいた。
かなでの一つ一つの言葉に火積の心は揺れ動く。
跳ね上がりそうな心臓の音を抑えながら火積は「勘弁してくれ・・・・・・」と呟いた。
今、自分がどんな顔をしているのか簡単に想像できる自分がいる。

「? 何かどうかした?」

小さな声を聞き取ることはできなかたのだろうかなでが、どうしたのと尋ねるものの上手い言葉が見つからず、火積は曖昧な言葉で濁す。
本当はすごく嬉しかったこととか、感謝の言葉とかたくさん言いたいことはあるはずなのに。どうして自分はこうも口下手なんだろうか。

『・・・・・・いつもあんたには、その・・・驚かされてばかりだ・・・』

「そう?」

『ああ、それでいて・・・・・・悪い気分はしねぇ』

ああ、とここでかなでは火積が喜んでいてくれていることに気づく。
言葉は多くないけれど、その一つ一つの言葉に重みがあることはかなでもよくわかっているから。

「喜んでくれてるなら良かった」

『・・・ありがたく、いただく』

「うん。食べてくださいな」

それが一番嬉しいと思うから。ちゃんときれいに食べてくれるのは嬉しい。
火積はかなでが出したものを残したことは一度もない。むしろ美味しそうに全てを平らげてくれる。
美味しいなら美味しいとちゃんと伝えてくれる。
不器用だけど、優しくて大好きな人。

だから。

お誕生日おめでとう、あなたが生まれてきてくれてよかった。


「大好きだよ」

口にした言葉に驚いたのか少しだけ言葉に詰まると、勘弁してくれと言いながら。

『・・・・・・俺も・・・あんたのことが、好きだ』

きっとこんなこと言わせるんじゃねぇとか言ってるかもしれないけれど、素直な気持ちを伝えたいって思うから、とかなでは満足そうに微笑む。

あなたが生まれてきてくれたから、私はあなたに出会えた。
出会えたから、私の世界は変わったんだよ。

――あなたに、どうか、たくさんの幸せを。
     いつも笑っていられる、そんな世界を。

その世界で隣にいられますように、とかなでは思いながら星に願い、夜空を仰いだ。





*あとがき*
誕生日おめでとう、火積。というわけで、誕生日小説です。
二人が付き合ってる高校三年生の頃の話。かなでならやりそうだなぁなんて思いながら書いてみました。サプライズは大好きですよ、私。
火積の誕生日プレゼントのお菓子に甘さ控えめと言う表現は、食べられるけど量は食べられないんだろうなと言う推測の元に書いていますので、あしからず。
ぎりぎり間に合ってくれて良かったーと思いつつ、どうして私の好きなキャラは原稿中に誕生日を迎えるんだろうかと思ってしまう今日この頃。
楽しんで頂ければ幸いです。。